ブログ【虚構と現実のはざまで➁】自らを俘囚と詠んだ近藤さん
6月の紫蘭コンサートで大きなスクリーンに映し出されたゲームのスチルがどれも素敵だったなあと今でも頻繁に思い返して感動に浸っています。ゲームで流れるBGMを生オケで聴く体験はなんとも言えないものでした。第1音からズシーンと胸に迫って、怒涛のごとく走馬灯のように薄桜鬼の世界が心の中を駆け抜けていく。演奏を見るのも楽しいしスクリーンに映る土方さんの語り掛けも、本当にそこに居るように感じられて大層臨場感が強く感動を呼ぶものでした。
いつも斎藤さんルートをリピートしてばかりいるので、別ルートのスチルが大きく写しだされると、はっとするぐらい強い印象を受けました。左之助さんや近藤さんが格好よかった。特に近藤さんが打ち首になる場面は、ナレーションで土方さんが残念そうに語ったこともあり胸が詰まりました。
ずっと以前から気になっていた近藤さんの最期。潔く覚悟を決めて処分を受け入れた近藤さんですが、流山で陣屋が新政府軍に包囲された時、(官軍に協力している)近隣藩の旗本「大久保大和」と名乗り投降しました。金子家(五兵衛新田、現在の足立区綾瀬)から流山に移動してたった2日後の慶応4年4月3日のことです。歩兵15名だけを残し土方さんは江戸へ戻りました。これが二人の今生の別れとなりました。
最初粕壁(春日部?)へ連行。近藤さんは野村利三郎(近藤さんと一緒に投獄されるが釈放されて仙台へ移動)と村上三郎(途中で流山へ戻り後に仙台へ行った)を伴に引き連れて馬上移動だったと記録されています。
新政府軍の中にいた彦根藩士「渡辺九朗左衛門」が京に居た頃に見た近藤勇の姿を覚えていたことから、大久保大和=近藤勇かも?!と報告。身バレに発展していきます。
越谷宿での取り調べで、薩摩藩に保護されていた元御陵衛士の加納道之助(わしお)、武川直枝(新選組時代は清原清)が近藤勇の顔を知っていることで、近藤さんの部屋の障子の穴から覗き見た後、部屋に入り対面後証言したことから素性は決定的になり板橋へ連行されます。「わしお&清」は近藤さんと対面した時、「近藤は実にエライ人物てありましたか、その時の甚だ恐怖の姿てありました」とビビりまくっていた様子が記録されています(「史談会速記録、一〇四集」)ビビり清は白河戦線で死亡します。
わたしは自分の二次創作で、ビビり清を斎藤さんに殺害させました(戊辰一八六八「初戦白坂口」)、虚構の中で仇討ち。ぬぅはっほっ。
その後近藤さんは、越谷から板橋へ連行される途中、綾瀬川を渡った河岸の川魚料理屋「よしずや」で休憩した際、弁天の藤の下で辞世の句を詠んでいます。(今回は前半の4句だけ、書き出します)
孤軍援絶作俘囚
こぐんえんぜつさくふしゅう
顧念君恩涙更流
こねんくんおんるいこうりゅう
一片丹衷能殉節
いっぺんたんちゅうのうじゅんせつ
睢陽千古是吾儔
すいようせんこぜいごちゅう
音読みで第一句、二句、四句の末尾(赤字部分)が綺麗に押韻された七言絶句(7文字8句で成り立ち、偶数句が一句と押韻する形式)です。
訓読
孤軍 援 絶えて俘囚となり (孤軍の援助がとだえて囚われの身となった)
君恩を顧念すれば涙 みずから流る(主君の恩を思い返すと涙がとまらぬ)
一片の丹衷 甘んじて節に死す (胸いっぱいの真心で節義に殉じよう)
睢陽は千古 是れ吾が儔(ともがら)(唐代の睢陽で奮闘した張巡は我が同士)
押韻の部分、俘囚、更流、吾儔(ふしゅう、こうりゅう、ごちゅう)に注意して音読するととてもリズミカルで美しい句だなと改めて感じます。
「囚われの身」という意味の「俘囚(ふしゅう)」という言葉。古くは蝦夷(えみし)から朝廷に服属した者たちを表す言葉でした。武芸に秀で戦いにたけた者たち。東戎の原型です。陸奥や出羽の古代史の中で、「まつろわぬ者たち」が中央政権である朝廷に従い、その強さから南は九州から奥州に至る地域の傭兵として置かれるようになり、やがて奥州出羽の俘囚長であった阿部氏、清原氏が奥州藤原氏へと繋がって大きな力を持つようになりました。元祖、坂東の武士という感じ。
押韻の為に「俘囚」という言葉を用いた近藤さん。確かに流山で援軍は途絶え新政府軍に囚われてしまったと己の状況を表していると取れますが、近藤さんが刀の腕を買われて農民から剣術道場主となり、帯刀を許され幕臣となり、果ては旗本の身分までのしあがったことを踏まえると、単純に「捕虜」の意味としてだけでなく、坂東武士の原型(その歴史で中央の政に翻弄された者たち)という意味を孕んでいるように思えて。その後に続く句への意味あいも拡がっていく気がします。
近藤先生、改めて凄い人だったのだな。
紫蘭でみた大きなスクリーンのスチル。大層感動したので、劇場版アニメ、大きいスクリーン&最新音響でまた観たいなと思っています。銀魂一国傾城篇みたいに京都乱舞再上映されないかしらん。