戌の日

戌の日

斗南にて その12

斗南県五戸

明治六年如月

 立春を過ぎた、ある朝。

 家の軒先にひと際大きな氷柱が出来ていた。朝日を受けて輝くような雫が雪の上に落ちている。氷柱の中には、深紅の椿の花が首をもたげるように咲いているのが見えた。

 千鶴が氷柱の先に手をやると、氷は霧のように消えてゆっくりと椿の枝が手の中に下りて来た。美しい花は、千鶴の掌の上で文に変わった。

 藤田千鶴様
 毎日厳しい寒さが続いていますが、御変りありませんか。
 八瀬の雪解けはもう少し先になりそうです。
 着帯のお祝いに伺いたくて
 次の満月の日に御所車を出す準備をしています。
 女衆だけで出向きます。
 千鶴ちゃんに会えるのを楽しみにしています。

 鈴鹿千

 千鶴は、八瀬の千姫が斗南に来ることを斎藤に伝えて、次の満月を指折り数えて待った。お腹に子が出来たと判ってから、五ツ目の月に入り、つわりも落ち着いてきた。斎藤は、少ない物資で食事のやり繰りをする千鶴を労わりながら、八瀬からの客人を迎える準備を手伝った。故郷に長く帰っていた馬別当も戻り、直家の離れに再び寝泊まりするようになった。斎藤は、馬に荷車を引かせて藩邸より客人用に布団を借り受けて来た。

 そして迎えた満月の夜。八瀬の御所車は、月明かりの中を滑るようにやって来た。金色に輝く引き戸の中から、千姫、君菊、葵の三人が降り立った。三人は美しい壺装束で馬別当が敷き詰めた藁敷の上を斎藤に手を引かれながら、直家の中に入って来た。

「千鶴ちゃん」

 千姫と千鶴は手を取り合って再会を喜んだ。君菊と葵は、車からどんどん荷物を下ろし、馬別当と斎藤が運び入れた。沢山の食糧と物資。斗南に移って以来、冷害と飢饉続きで、斎藤の暮らす五戸の直家も殆ど食糧が底をつきかけていた。米俵や乾物、籠には新鮮な野菜が溢れるように詰め込まれていた。これはまさに殊恩。斎藤達は千姫の温かい心遣いに感謝した。

「本当に有難い。有難うございます」

 斎藤は深く頭を下げて礼を言った。これで千鶴を飢えさせずに済む。年明けに千鶴の体調が心配だと千姫に文を書いていた斎藤は、雪深い五戸から便りが無事に八瀬まで届いているのか心配だった。千鶴の体調を気遣い、こうして千姫がわざわざ帯の祝いに遠い地から駆け付けてくれることも、殊の外嬉しかった。

 葵は、さっそく儀式の準備を始めた。直家には土間続きに厩があり、不浄とされる為、二頭の馬にお祓いをしてから、金箔と銀箔でできた紙垂を馬首にかけた。颯も青葉も何が起きているのか解かっているかのように神妙な表情をしているのを、千鶴がクスクスと笑って見ていた。

「このようにしていると、まるで神馬のようだ」

 斎藤は二頭の馬の飾りをみて感心してそう言うと、颯は「ふん」と鼻息で返事をした。

 衣装箱に入れられた「おしるしの帯」と打掛を君菊が奥の間に運び入れた。千鶴は井戸端で禊をしてから葵に手を引かれて奥の間に入って来ると、君菊に丁寧に打掛を着せてもらった。

「では、これから【御帯の儀】を執り行います」
「夫であるご主人に、おしるしの帯を結んでもらうの」
「やり方は、私たちが教えるから、千鶴ちゃんは少しの間立っていてね」
「立っているのが辛い時は、腰かけてもいいから。ゆったりとしていて」

 斎藤は千鶴の前に正座して座った。最初、自分も正装をする必要があるのかと思っていた。着替えようとしたところを、千姫から「帯を結ぶ役目だけでいい」と云われたので、斎藤は普段の長着に半纏を羽織ったまま禊だけを済ませた。千鶴が打掛の前を開けて、下着を開いたまま立ったところを手渡された帯を両手に持って、腰の後ろから腹を包むようにして、教えられるままに巻いて行った。

 千鶴のお腹は正月を過ぎた頃から日に日に膨らみが目立つようになっていた。小さな命を宿した大事な身体。温かな肌を大切に包むようにして、帯の両端を前に持って来た。帯は片側が真っ白な晒しで、もう片側は紅絹で出来ていた。斎藤は言われるままに紅白の帯を前で交差させて結んだ。

「こちら側を前に輪の上に一度通してから」
「左側を上に、そのまま両側に引いて」
「これが双輪(もろなわ)結び」
「とても御目出度い結び方なの」

 千鶴は、自分の鳩尾の下に綺麗に蝶結びされた帯を見て嬉しくなった。そっと下着を着直して、打掛を着てから斎藤に助けて貰いながら腰をかけた。

「さあ、これで【おしるしの帯の儀】はおしまい」
「お腹の子はきっと元気に生まれてくる」
「夏が来るのが楽しみ」

 千姫は嬉しそうにそう言うと、君菊と葵と一緒に囲炉裏端にご馳走を並べた。そして、馬別当を呼んで、皆でお祝いをした。一通り食事が終わると、千姫は八瀬の里からのお祝いと言って、産着用の反物を贈った。そして、君菊が持ちよった桐の箱を開けると、中から白木で出来た様々な道具が出て来た。日常的に使う食器や、化粧道具、そして白木の着物入れ。全てが真っ白で立派なものばかり。

「これは、西国の風間から」
「強き善き鬼を迎える千鶴ちゃんたちに」
「出産までを健やかに過ごせるように総白木で造らせたって」
「とても縁起の良いものだから」

 千鶴は、遠い西国から風間が祝いの品を贈ってくれた事に驚きながらも、とても嬉しいと言って喜んだ。

「それとね。風間から千鶴ちゃんに申し入れたい事があるって」

 千姫は、君菊から書状を受け取ると、それを千鶴に渡した。

 陸奥国鬼頭 雪村千鶴様
 貴方、益々壮健の事心よりお慶び申し上げ奉り候
 先戦後陸奥国雪村の郷が荒廃の一途を辿りつつあり
 西海九国一同心より東国の再建を望み奉り候
 然れば当方で此れを整備したく
 郷に立ち入るを御許し頂きたく
 御願い申し上げ奉り候

 西海九国鬼頭 風間千景

 流麗な手跡でしたためられた文を千鶴は何度も読み返した。先の戦では、風間千景は鬼の棟梁として雪村の郷のある白岩を西軍の攻撃から守ってくださった。幼い頃に暮らした私の故郷。

「生まれてくる子は、東国の主になる。風間はそう言って西国の長老を説き伏せたの」
「再建は西海九国が請け負うそうよ」
「風間の治める西国には、腕のいい宮大工がいるんですって」
「私は、賛成したの。八瀬以外の鬼の一族たちも」
「【強き善き鬼】が生れるなら。鬼の国の主となるから」

 皆が待ち望んでいるの。吉事だって。本当にこんなに御目出度い事はないもの。

 千姫は千鶴と斎藤に向かって、雪村の郷を再建することを強く勧めた。郷の整備を西国の風間の手に委ねることを承諾するようにと云って。

「去年の秋にね。あの風間がわざわざ八瀬まで来て」
「五年振りに顔を見たわ。風間は相変わらずよ」
「東国に新しい鬼頭が生れるなら、郷の復興は必須」

 ——俺様が全て請け負う。一切口出しはするな。

「この一点張り。郷の見取り図まで作らせていたのだから。用意周到よね」

 そう言って、千姫は口元を袖で覆って暫く肩を揺らせて笑った。

「ほんとに、千鶴ちゃんに袖にされたのが、よっぽど堪えたのだわ」
「鬼は、一度した約束は違えぬって」
「片意地張ってるわよね。そういうところが女々しいのよ。風間って」

 千姫の悪態はなかなか止まらなかった。千鶴は、そこまで風間が雪村の郷の再建に心を砕いていることに改めて驚いた。そして、約束といっても、いつ風間とそのような約束を取り交わしたのか、全く記憶がなく。戸惑うしかなかった。

「千鶴ちゃん、何も心配をすることはないわ。風間は日の本の鬼の一族皆が平穏に暮らすことを望んでいるだけよ。風間に二心はないわ」

 だから安心してね。千姫は千鶴の手をとってそう言うと、斎藤にも千鶴ちゃんの故郷が整ったら、また御案内しますと言って微笑んだ。千鶴は、風間の文を丁寧に畳み直して、奥の間に行くと、お祝いの目録と一緒に文箱に大切にしまった。

(今晩にでもお礼の文を書こう)

「風間さん、本当に有難うございます」

 千鶴は囲炉裏端に戻って、祝いの膳を頂いた。馬別当と斎藤は久しぶりに酒を飲み、いい気分になったと笑って、二人で離れに休みに行った。千鶴は、奥の間に布団を並べて敷いて、千姫たちと横になった。行灯の灯を消した後も、雪明りが射しこむ部屋でずっと四人で語り合った。千姫は、西国からの噂話だと言って、風間千景が嫁とりに悉く失敗していると語っては、上掛けから袖を出して口元を抑えてケラケラと笑った。

「天霧も必死よ。大和の国まで出向いたこともあったの。長崎の写真師を連れてね。相手の娘の写真を撮って風間に見せたんですって」
「黒髪、黒目、瞳は大きくなくちゃだめでしょ。鼻筋が通って、口元は小さくて」

 千姫は指を折りながら、風間千景の条件を数えて、肩を震わせて笑っている。

「華奢で、愛らしさのある女人を風間はお望みですって」

 千姫は噴き出した。君菊も葵も一緒に笑っている。

「千鶴ちゃん、そのものでしょ。風間の好みって」
「千鶴ちゃんみたいな可愛い娘が、万が一どこかで見つかったとしてもよ」
「風間みたいな男のところへ、誰が行くもんですか」
「それにしても、千鶴ちゃんへの執着が強すぎて。本当に気持ち悪いったら」

 千姫の悪口は止まらなかった。先の戦の後、風間は西国で長く臥せっていたという。

「銷沈していたそうよ」
「八瀬まで天霧が治癒祈祷の要請にきたんだから」

 千鶴は驚いた。もう先の戦から何年も経つ。あの混乱の中で、負傷した風間は一命をとりとめた。千鶴は最後に見た風間の姿を思い出していた。あれほど力の強い風間さんが、弱ってらした。鬼の力をしても、癒えるまでには時間がかかったのだろう。

「身体だけではございません。魂も心も全て、覇気を失くしておいででした」

 葵が静かに話した。八瀬の里で西国の棟梁の治癒祈祷を大々的に行ったのは、後にも先にもこの時が最後。ひとたび平癒されたら、たちまちお元気になられました。葵は千鶴を安心させるように伝えると。

「その時でした。風間様から千鶴様を禍事から守る祈祷をするようにとお願いされて」
「以来ずっと執り行っております」

 千鶴は驚いた。どうして。風間さんはそこまで……。

「そういうところよね。悪いことでは決してないけど。ちょっと気味が悪いわよ」
「姫様、」
「それは余りにも酷うございます」

 君菊が声を荒げた。千姫はクスクスと笑いを堪えられない様子で「だって」と言っている。

「だって、千鶴ちゃんは全くこれっぽっちも風間なんて相手にしていないのに」
「好きなのは、仕方ないわよ。でも、風間の『千鶴ちゃんの事を好きでいる』あの『在り方』がね」
「執念深くて、少し気持ち悪い……」

「姫様!!」

 君菊の声に、千姫はまた笑っていた。

 千鶴は、身体をゆったりと横たえたまま自分のお腹を擦っていた。

「先の戦で私は風間さんに助けて頂きました」
「風間さんは、御認めにならないかもしれません。でも、

 ——命を投げうって、私たちを助けてくれた。

「私もはじめさんもそう思っていて……」
「会津との国境の山中でした。ただ逃げるのに無我夢中で。あの日の事は思い出そうとしても、私もハッキリとした記憶がなくて」
「なので、いつか風間さんにお会いする機会があれば、あの日のことを、お礼を言いたいとずっと思っていて」

「こうして、生きて。はじめさんの子を授かることが出来たのも」
「本当に風間さんや皆さんのおかげです」
「とっても感謝しています」
「有難うございます」

 千鶴の静かな声を聞きながら、皆が幸せそうに横たわる千鶴を見ながら微笑んでいた。

****

 

 直家の離れの間で、斎藤は馬別当と布団を並べて横になっていた。二人はほろ酔いのまま、時折母屋から聞こえる女衆の笑い声を聞いていた。

 以前の斎藤なら、千鶴たちの話す声、どんな風に笑っているのか、全て手に取るように聞き取り、感じることが出来ただろう。だが、最近は以前のような「聞耳」も「研ぎ澄まされたような感覚」もすっかり失せてしまった。

 羅刹だった頃の感覚は身の内から霧のように消え失せていた。それは一瞬で起きたわけではなく、じんわりと蒸発していくように立ち消えていった。ある夜、斎藤は気づいた。それまで聞こえていた音が耳に届かなくなり、目を開けても暗闇のまま。身の内の力を奮い立たせてみたが、以前のように全身の血が沸騰するように羅刹になる瞬間を再び迎えることはなくなった。

 あれほど強力だった羅刹の感覚が消えた。再び人間の感が戻るのだろうか。

 最初に気掛かりだった事は、直ぐに打ち消された。己が失うまいとしていた人としての感覚は己の中に普通に残っていた。

 何も消えていない。
 俺は人のままだったのか。

 これが、夜目が効かなくなった夜に実感したことだった。隣に横たわる千鶴に手を伸ばした。暗がりに薫る千鶴の匂い。舌で触れる肌の滑らかさ。己の感じる事は何も変わらず。ただ、羅刹の力と苦しさだけが見の内から消えた。身が軽い。千鶴を抱くと感じる幸せな気持ちも全く変わらぬ。これが判った時、天にも昇る気がした。

 生き返る。
 生き返った。

 七森の龍の顎門で。命の泉に浸かった己の身は再び人に戻った。己の命が尽きるまで。愛する者を守ろう。愛おしい千鶴を。

 懐かしく秋の頃の七森の山奥で千鶴と睦み合った事を思い出していると、再び母屋から女たちの楽しそうな笑い声が聞こえた。

「ほんとうに楽すそうだなっす」

 馬別当が呟いた。

「女子衆集まるど。家の中、きらびやがで華やいでみえで」
「奥様があったらお元気にならいで、本当によがった」

 斎藤は「ああ」と応えた。本当だ。年末から千鶴がつわりで辛そうにしているのを見るのは辛かった。雪に閉ざされた直家の中で、食糧も尽きそうな中をよく耐えていたと思う。そして、八瀬の里からの客人に取り囲まれた千鶴の上気した表情を思い出した。あのようにはしゃぐ千鶴を久しく見ていなかった。千姫とは仙台の宿で再開して以来か。

 思えば、昔から千鶴には自由に行き来する女子の知り合いは居ない。京に居た間も、葵や千姫と懇意にしていたが、会う機会は限られていた。こうして、身内もいない土地でたった独り、子を産む事は余程不安だろうと思う。

「わたしは独りじゃありません」
「はじめさんがいます」
「それに、颯や青葉も。馬別当さんも」

 ——何かあれば、はじめさんやお千ちゃんに式鬼を飛ばします。
 少しずつちゃんと出来るようになったから大丈夫。

「それに、ここに子がいます。とても元気な子が」
「はじめさんと私の間に出来た子」

 千鶴は自分のお腹を嬉しそうに撫でながら、「ねっ」と話しかけている。斎藤に最近、日中に赤子がお腹を蹴るようになったと言って喜んでいる。触ると判るといっているが、今まで一度も斎藤が腹を擦っても、子が蹴り返す様子はない。

「今は、大人しく眠っているんです」

 嬉しそうに千鶴は笑っている。何という事だ。子が眠っている事まで分かっているのか。斎藤は心底千鶴が羨ましかった。さっきも葵からお腹の赤子との過ごし方の手ほどきを受けて、君菊や千姫に囲まれた千鶴は輝くような表情で笑っていた。

 女衆の楽しく笑う声を聞きながら、斎藤は千鶴の笑顔を思いながら、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

*****

明るい光の中から

 翌朝は、朝から快晴だった。

 春の七草を入れた粥を炊いて、飾り餅と一緒に朝餉に食べた。千鶴は食欲旺盛で、正月の頃が嘘のよう。斎藤が別当と一緒に、朝の運動から馬を戻すと、千姫たちは二回目の御帯結びがあるからと、奥の間に斎藤を呼んだ。

「昨日のおしるしの帯は儀式の為の帯で、これから結ぶのは普段の祈祷用のもの」

 千姫は、君菊が持ち寄った衣装箱から一組の晒しを取り出した。

「これは、祈祷がされた帯。中に、これをいれて」

 そう言って、千姫は三方の上に載った美しい印籠から、何かを取り出した。

「母親と子の健康を守る丸薬です。【仙沼子(せんしょうし)】を十四粒」

 丁度、千鶴のお腹にあたる部分が袋になっていて、丁寧に丸薬が中に納められた。千姫が広げた帯を斎藤は丁寧に受け取ると、千鶴の腹に丁寧に巻いて行った。

「少し、強めに。これからどんどんお腹は大きくなってきます。しっかりと帯で留めておくと、千鶴ちゃんも動きやすくなるから」

 斎藤は、もろなわに結んだ晒の端を君菊に教えられた通りに帯の間に挟み込んだ。千鶴はゆったりとした様子で下着を着けて長着を纏うと、胸の下で太めの真田紐を結んでその上から前掛けを着けた。千姫は、斎藤に毎日腹帯をしっかりと結ぶことを頼んで、荷物を片付けると、御所車に乗って八瀬へ帰って行った。

 馬別当と斎藤は、八瀬の里から贈られた米を荷車に積んで馬で藩邸に運んだ。これで春先まで集落は飢えることがなく過ごすことが出来るだろう。田名部より雪解けが早い五戸では、四月には、山菜を摘むことが出来るという。斎藤は、輝くような光が一面の雪に跳ね返る中で、馬別当と馬を引いて歩きながら、長い冬がようやく終わることを思った。

 そして、その夜、風呂上りの千鶴に帯を巻いている時に、お腹の子が動いたと知らされた。

 掌に感じた鼓動。
 それは、千鶴の言うように腹を蹴るような感触だった。

 たなごころに感じる子の動き
 小さな命がこうして

 気付くと千鶴の腹に耳を当てて音を確かめ口づけていた。そのまま千鶴を抱えて温めるように抱きしめると、二人で布団に入った。夜半まで愛し合った後に、帯を巻き直してから千鶴を抱きしめて眠った。

 夢の中で、子が笑う声を聞いた。

 光の中から聞こえる声に斎藤は千鶴と一緒に呼ばれているような気がした。

 斎藤は千鶴の手を引いてその明るい光の中へ走っていった。

 至福の光を感じながら。

 

つづく

→次話 斗南にて その13

 

(2020/03/05)

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