ブログ【あとがき】庇の影 その七 最終話。
皆さん、こんにちは。
「庇の影 その七」をアップしました。シリーズ最終話です。
以下あとがきです。ゲームや小説の設定のネタバレも含みます。
浪士が洛中で役立つことをアピールして、二条城内に新設された幕閣に金銭的支援や後ろ盾になって貰おう。
これが土方さんの狙いです。ゲームの冒頭でも既に、「井吹龍之介」の眼を通して、浪士集まりに問題山積みな様子が描かれています。当初の浪士の目的であった「将軍護衛の任」や「攘夷」は実現しそうもない。廊下から近藤さんと土方さんの会話を盗み聞きした龍之介は、常に浪士屯所から逃げ出そうと考えている。試衛館道場の面々とは完全に意思は真逆の方向で、屯所内の人間たちを眺めている。そんな龍之介の観点はとても興味深いです。
「庇の影」では、江戸を出奔した斎藤さんが、ゲームの冒頭で壬生村の八木邸を訪ねていく所までを描こうと思いました。斎藤一の謎の部分。京の吉田某の太子流道場に身を寄せていたことがあるという一説をもとに、最大限に想像を巡らせました。
斎藤さんの剣術の師、吉田房之介(羽入忠三郎)は完全なオリジナルキャラクターです。黎明録の大好きな場面。斎藤さんと総司君が久しぶりに手合わせをして、斎藤さんの剣の変化に驚く総司君 at 壬生寺境内。傍観者井吹龍之介。
人を斬ったことがある剣。
人をまだ斬り殺したことがない剣。
これは、黎明録での沖田総司がこだわる部分。「人斬り」の経験は、一種通過儀礼のような、本気の剣を目指す者は必ず通らなければならないイメージです。浪士集まりの派閥争いの中で、剣術の実力は、実戦経験が物をいう事、丹力と人を斬り殺す覚悟が出来ていないと駄目だという芹沢鴨の言葉など、沖田総司の独特の焦燥感が描かれながら物語は進んで行きます。
黎明録の沖田総司の変化は非常にドラマチックです。総司君の気持ちの焦りを刺激するのが、「はじめくんの剣は変わった」という実感。
吉田道場でみっちり稽古を積んで、斎藤さんは強くなった。
これが「庇の影」の大きな骨組みです。どれだけ斎藤さんを精神面や剣術において変化させたのか、ここを描きたかったのです。そのために「吉田房之介」というメンターを登場させる必要がありました。
上洛して道場に身を寄せて、実質、斎藤さんが吉田先生から教えを受けたのは二か月半ほど。この短い間に多大な影響を与える存在。斎藤さんが寡黙で己に厳しく、新選組や会津藩に忠義を尽くしまくる生き方は、吉田の教えをずっと実践している所以。
後に斎藤さんは剣術指南役として新選組やそれ以降の組織でも活躍します。教示法はそっくりそのまま吉田房之介を踏襲しています。二人は生来無口なタイプで、性質も似ているところがあります。意図的にあまり吉田の外見の描写を明確にしないでおきました。読む方が自由に「吉田房之介像」を心に思い浮かべて貰えれば幸甚です。(でもきっと格好いいですよね、イケ親父であることは間違いなし)
黎明録の時系列と、「庇の影」では若干異なる部分があることをここに明確にしておきます。ゲームでは将軍上洛の前に斎藤さんは浪士に参加しています。二次小説では、プロット上どうしても、タイミングが「京残留嘆願書」に名前を列ねる直前にしたくて、このような流れになりました。(二次創作的には、大して重要ではないのですが、わたしは悩んでしまいました)
あと、斎藤さんの名前問題。これも悩みの種です。ゲームでは、壬生に現れた時に、「久しぶりじゃねえか、斎藤」と既に名前が「斎藤」として覚えられているのです。でも、江戸で試衛館メンバーと別れた時(まだ旗本を斬っていない)は「山口一」として認識されていたはず。薄桜鬼では、いつから斎藤一だったのでしょうね。謎です。
斎藤一に名前を変えたのは、旗本を斬った罪から逃れるため。
大股開きでの設定がゲームとは齟齬を生んでしまっていて、どうしたものか随分悩みました。なので、この辺りはゲームと同じに出来ず、苦し紛れに「山口はじめ」として屯所に現れ、「斎藤」と苗字を変えていると本人が説明したということにしました。あー、苦しい。斎藤一という名前が好きすぎるのも困ったものです。
斎藤さんの成長物語として「大股開き」「庇の影」を綴りました。「青春の蹉跌」と一言では片付けられない。非常に大きな想いを抱え、それゆえに闇に放り出され、行く先々で希望を見出しては、また放り出される。そんな人生の荒波にも負けず、ひたむきに己の剣の道を貫く斎藤一に魅了されながら、物語を書きました。
長い間お付き合い下さって本当にありがとうございます。
いつも読みに来てくださって有難うございます。
暑い日が続いています。皆さん、体調にはくれぐれもおいといください。
ちよろず
(トップギャラリー:©2021 IDEA FACTORY/DESIGN FACTORY 「薄桜鬼真改黎明録」サイトより)