Pool side

Pool side

私立薄桜学園


 私立薄桜学園は、【試衛館】という武道道場があった土地に建っている。

 試衛館の歴史は幕末まで遡り、天然理心流を教え、維新後も多くの剣士達が学んだ。明治、大正、激動の昭和を経て、創始百七十年。明治維新以降は、江戸時代の藩校制度に倣い、道場に学問を教える寺子屋を併設。文武両道を目指し、心身共に鍛えるという名目で多くの子弟を育てた。

 昭和に入り、試衛館は学習塾という位置づけになった。時代は平成に変わり、世の中の不況の波に圧され、塾経営も立ち行かなくなり、一時は都内に七ヶ所で多角経営していた道場を閉める事になった。現在の試衛館道場の道場主、近藤勇は、元の剣術道場だけでも守ろうとしたが、資金繰りは頓挫した。なんとか試衛館の土地と道場建屋は守ったが、道場に通う剣術の子弟を抱える事は出来ず、近藤は全道場閉鎖に踏み切った。

「勇さん、何とかならないものかねえ」

 近藤が道場の破産手続きを終えた事を報告すると、井上は溜息をついた。

 井上源三郎。井上建設社長であり、井上コンツェルン会長。井上は旧くから試衛館で剣術を習い、近藤がまだ内弟子だった頃から一緒に精進して来た。現在は、会社経営は親族に任せている。井上は、試衛館道場閉鎖の決定に近藤以上に心を痛めた。私塾となっても、剣術では妥協しない近藤の元、道場に通う子弟は優秀な者が多く、井上は才能を伸ばす場所を絶やしてはならないと、その場で出資を申し出てくれた。

 井上の事業グループはもとより、同じ不動産文化事業など多角経営をしている風間グループも出資を承諾し、試衛館の地に高等学校を設立する事となった。

 都内の学校数は減少の傾向だったが、文科省の承認も受け、その一年後に私立薄桜学園が設立された。試衛館道場で小さい時から剣術を学んでいた沖田総司、斎藤一、藤堂平助、が第一期生として入学した。講師陣も元試衛館で学んだ者が並んだ。土方歳三、原田左之助、永倉新八。保険医として山南敬助。

 入学後、沖田達は早速剣道部を立ち上げた、顧問に土方歳三。副顧問に永倉新八。部長は、沖田総司が近藤に指名された。毎日厳しい稽古だったが、試衛館道場のメンバーはひたすら精進し、剣道の都大会はごぼう抜きの成績。沖田と斎藤は翌年の全国大会に出場が決まった。

 年が改まって、近藤の元に旧い知り合いの雪村鋼道から連絡が入った。小石川の雪村病院の院長で、春から難病の治療法の研究員としてヨーロッパに二年間出向く事になったと言う。

「病院の経営は問題ないが、一人娘の千鶴を連れて行くのが忍びない。私は仕事で家を空ける事が多く、遠い外国に独りで学校にやるという訳にも行かない。ちょうど、受験の時期なので、千鶴と相談したら日本で学校に通って留守を守りたいと言っている」

 綱道の説明では、薄桜学園に小さい頃に道場でお世話になった兄弟子が居て、近藤先生が校長をされている。受験したいと本人が希望しているという事だった。

 あの雪村千鶴くんか。

 近藤は、千鶴がまだ7つ8つの頃に、道場に通って居たのを思い出した。近藤の道場は、木刀で稽古を行い、女子にも手荒い。それでも、毎日通って来て居た。井上を始め、土方や原田、皆が幼い千鶴を可愛がっていた。あの千鶴くんが、もうそんなに大きくなって居たのか。

 近藤は、鋼道に学校推薦制度がある事を説明した。その週の内に千鶴の通う中学校から、紹介推薦の手続きが取られ、一月中に千鶴の入学が決定した。面接に来た時、千鶴は近藤先生の元で再び学びたいと言った。それから千鶴は学園校舎の裏の試衛館に立ち寄った。門に板が渡されて中には入れないが、小さな時に通った道場での日々が懐かしかった。

 入学して間も無く、試衛館の兄弟子が千鶴を見つけて声をかけて来た。皆、背が高く大人びていて、千鶴は吃驚した。

「千鶴ちゃんは、もう剣道やらないの? もし入るなら、女子第一号部員だね」総司が笑う。
「第一号という訳ではない。過去に数名女子が入部したが、総司が木刀の打ち合いで容赦せぬ為、みな辞めて行った」
 そう言って、とつとつと隣に立って静かに斎藤が説明した。千鶴は、相変わらず沖田は強いのだなと、感心した。
「今度、見に行きたいです。皆さんの稽古を」千鶴は溢れるような笑顔で言った。
 斎藤は、自分に向ける屈託のない千鶴の笑顔に鎖骨の辺りがふんわりとなって暫く動けなかった。

 千鶴が見学に来た時、元試衛館メンバーは、張り切った。あまりの平助の張り切り様に、新八は大笑いしていた。その声を聞きつけて、道場の前を通りかかった原田が体育館に入って来た。千鶴の姿を見つけると、隣に立った。

「千鶴、剣道部に入るのか」
「はい、手芸部と兼部で」
「へえ、手芸もやるんだな。編み物とかか」
「はい、この夏に向けて浴衣を縫ってみようと思っています」
「浴衣か。いいなあ。出来上がったら、着てみせてくれよ」
「学校の校舎で、夏休み中に納涼祭をやるんだ。文化祭に毛が生えたみたいなもんだが、花火が上がる。数は少ないが綺麗だ」

「ちょっと、そこ」

 千鶴と原田の前に立った平助が、竹刀の先で千鶴と原田を分ける様に払った。そして、防具を脱ぐと、

「左之さん、つうか、原田先生、見学者の邪魔はしない」
 不貞腐れた様に、しっしっと原田を追い払う。
「わかったよ。じゃあな、千鶴」と道場から原田は退散して行った。

 千鶴が剣道部に入部して、試衛館メンバーは稽古を俄然張り切りだした。千鶴の剣筋は幼い時と変わらず素直で、負けず嫌いな面もあって厳しい稽古も決して根を上げない。道具の手入れや、部員への飲み物や差し入れも行い。マネージャーの居なかった殺伐とした剣道部がスムーズに事が運ぶ様になった。

 部活帰りに、皆で校舎を出ると、校長の近藤が試衛館の建屋の前で立って居た。皆で挨拶をしに近づくと、
「ああ、君たちか。さっき稽古を覗かせて貰った。実に熱が入った様子だった」
「近藤先生、此処で何されてるんですか?」
 訝る総司に、近藤が道場を振り返り応えた。

「道場が使える状態ならな。連休中や、夏休みも泊まりがけで稽古も出来る。ここは風通しもよくて、大勢で合宿するのには最適な場所だ」

 近藤は、朽ち果てた状態の建屋を残念そうに眺めていた。

「近藤先生、僕が全国大会で優勝したら、賞金でここを使える状態にしてみせますよ」
 総司が笑った。
「そうか、総司。それは心強いな。ありがとう」

 そう言って笑う近藤は、夕陽を浴びて何処か寂しそうで、千鶴は挨拶をして校門に向かいながらも何度も振り返った。そんな千鶴に、総司が話しかけた。

「千鶴ちゃん、覚えてる? 試衛館の床の間?」
「はい、立派な掛け軸がかかってました」
「あの後ろの塗り壁に大きな穴が空いてて、未だに土方さんにも近藤さんにも内緒」
 そう言って、総司が笑って片目を瞑る。
「僕とはじめ君で空けちゃったんだよね、はじめくん」
「あれは、故意ではない。総司がからかったのが原因だ」
「でも、壁を思い切り突いたのは、はじめ君の切っ先だったよ」
「何度も言うが、故意ではなかった」
 斎藤は、憮然として呟く。
 
 総司と斎藤が道場で暴れていた頃、既に試衛館の経営は傾いていた。私塾部門に塾講師として雇われていた土方や原田も、当時は経営難で、別に仕事を探さなければならず、近藤は融資先を求めて道場には殆ど居なかった。実質的に、総司と斎藤が中心になって、自分たちで道場に通い、自主練で鍛錬して居た。

「僕、賞金貰ったら、あの壁を直すよ」

 総司はそう言って、校門から遠くに見える近藤の姿を眺めた。



****

芹沢鴨の来訪


 六月のある日、学校の出資者の一人である、芹澤が現れた。千駄ヶ谷に広大な屋敷を持つ資産家で、若い時に近藤と剣道の試合で戦った相手だった。剣道協会にも顔が効く。

 全国大会の出場が決まった薄桜学園剣道部の様子を見に来たと、突然体育館の道場に現れた。顧問の土方は、この芹澤と反りが合わない。道場は水を打った様に静かになった。総司と斎藤の手合わせを見て、芹澤は、鼻先であしらった。

「斯様な程度で、全国大会か」

 これを聞いた土方は、怒髪天で、自ら木刀で勝負を吹っかけた。
「おい、芹澤さんよ。喧嘩を売って来るなら、上等だ。買ってやろうじゃねえか」
「フッ、貴様の道場剣法など、ものともせんわ」
「言ったな、この野郎」
「俺様から、先に三本とったら、あの建屋をなんとかしてやろう」
「建屋って、なんだ」
「裏の試衛館道場だ。近藤が再建したいなどとほざいておる。馬鹿も休み休みに言えと、今日は説教しに来たが。これも余興だ。貴様が勝てば、金は出してやる。負ければ、道場は土地ごと没収」
「駐車場にでもしてやろう」

 土方は、怒り狂った。道場が静まる中、駆けつけた近藤が止めるのも聞かず、土方と芹澤は剣を交えた。それは試合とは程遠い喧嘩剣術。土方は、足や腕、水が溢れた床まで使って、芹澤から一本を取ろうとした。

「貴様、邪道な手を使いおって、何が【誠の武士の心】だ。片腹痛いわ」
「勝負に、邪道もへったくれもねえんだよ」
 土方は一気に優勢に出て、一本を取ると、続けて芹澤を蹴り付け、胴に一本打ち取った。

 試合の中断を叫ぶ、側近の新見を、近藤も試衛館メンバーも無視して、最後の立会いを見詰めた。

 最後は、力技で押し込む芹澤に、土方は、もう少しで木刀を落としそうになったが、土方の左足は掬いで芹澤のバランスを崩し、すかさず面をとった。
 芹澤に駆け寄る近藤や大騒ぎする新見をよそに、汗だくの土方に皆が駆け寄り賞賛した。芹澤は「武士に二言はない」と、帰り際に一千万円の小切手を切って帰った。



****

「なんか、嘘みたいなホントの話だね」
 総司は、試衛館の前に立って話す。
「近藤さんが、夏には間に合わないけど、すぐ工事したら秋には道場再開出来るって言ってたよ」
 平助が、感慨深かそうに話す。
「我々だけでなく、昔みたいに剣術道場として門を開くとなると、防具や木刀、道具が必要だ」
 斎藤が静かに呟く。
「それはさ、僕が全国大会で優勝して賞金で買ってあげるよ」
 総司が得意そうに言う。
「俺は、壁の修理代を近藤さんに渡す」
 そう斎藤が呟いた。

「あれ、はじめ君。はじめ君も優勝賞金あてにしてる?」
「いいや、夏休みにバイトをしようと思っている。大会は夏休み前に終わるだろう。賞金がとれたとて、たかが知れてる」
「あれ、ちょっと酷い言い方じゃない、それ。僕の賞金は端金って事?」
「そのような悪口で言ったのではない。バイトは短期で資金を貯めるのに良いと思ったのだ」
「それで、何をするの?」
「プールの監視員だ」
「なになに、プールのバイト?」平助が尋ねてきた。
「ああ、昨日募集が出ていた。明日履歴書を送る」
「時給いくら?」
「1000円だ。プールサイドカフェのウエイターも兼務すると、さらに時給が上がる。1200円だ。片付けを終えて夕方6時には上がる。近くに図書館もある、立ち寄って宿題も出来るだろう」

「げ、はじめ君、朝から働いて、帰りに勉強するの? 俺、ぜってぇ無理」
 平助は首を振った。
「ねえ、はじめくん、そのバイト僕ら全員でやれば、結構な資金貯まるよね」
 総司が尋ねた。
「全員。部員でということか」
 斎藤は、驚いた。
「ここに居る皆んなだよ。平助と僕と、千鶴ちゃんと。千鶴ちゃんもやるよね?」
 総司が、千鶴の顔を覗き込んだ。
「私、やってみたいです。斎藤先輩、女子も監視員出来ますか?」
「ああ、女性も募集していた。ウエイトレスは募集人数も多かった」
「じゃあ、千鶴ちゃんは確実に採用決定だね」
 総司は、笑った。

 翌日に斎藤達は、一緒に履歴書を送って、その週の内に面接を受け、四人全員で採用が決まった。二人ペアのシフト制。第1シフトが、午前に監視員、午後にカフェ。第2シフトが午後に監視員。総司達の厳正なジャンケン勝負の結果、千鶴とペアを組むのは斎藤になった。ペアになると、お昼休みを1時間一緒に過ごせる。斎藤は表に出さなかったが、夏休み中、毎日千鶴と昼を一緒に過ごすのが楽しみになった。
 

*****

夏休みのアルバイト


 全国大会は、斎藤が準々決勝、総司が決勝まで進んだが、僅差で敗れ、優勝を逃した。斎藤と総司は結果に苦渋を呑んだ。プールのバイト前に二人で早朝稽古をする事に決めた。

 こうして、一学期は終わって、千鶴にとって初めての高校の夏休みを迎えた。早朝稽古をする斎藤達に、お結びとお茶を持って行き、学校の裁縫室で少しずつ浴衣を仕上げて行った。この調子だと、夏祭りに間に合いそうだ。

 プールサイドの監視は、特にトラブルもなく、利用客も皆楽しんで安全に遊ぶ様子を眺めて居るのは楽しかった。監視台からは、プールサイドのカフェで、総司と平助がウエイターをしているのも見える。時々、平助が笑って手を振ってくる事があった。
 お昼休みは、午後1時にやっととる事が出来る。カフェの賄いはボリュームのあるもので、千鶴が食べきれないでいるのを見かねて、斎藤が手伝ってくれる。普段、物静かな斎藤が、二人で居る時は、色々な事を話すのを聞くのが楽しい、1時間の休み時間はあっという間に過ぎてしまう。
 千鶴は、ピンクのワンピースの水着に、カフェの制服のTシャツにホットパンツ、小さなエプロンを付けていた。斎藤は、紺のサーフパンツにTシャツとギャルソンエプロンを付けていた。プールサイドのカフェは、お昼を過ぎても、食事をする客はひっきりなしで常に混んでいた。夕方まで給仕でどっと疲れが出て、千鶴は図書館には寄らずに先に帰ると斎藤達と別れて家路についた。

 プール出口ゲートで、【風間千景】が車を停めて立っていた。風間は、薄桜学園三年生。生徒会会長であり。薄桜学園設立時の理事も務めている。風間グループの御曹司で、入学以来、何故か千鶴に付き纏っている。

「雪村千鶴、今バイト上がりか」
「はい」
「夏休みだというのに、朝からずっと働いているようだな」
「家まで送って行ってやろう」そう言って、天霧に車のドアを開けさせた。
「ありがとうございます。でも、結構です。家は近くなので」
 
 千鶴は、天霧に向かって、軽く会釈すると、家に向かって歩き始めた。後ろから、図書館に寄るのをやめた平助が追いかけて来て、一緒に帰った。

「なあ、千鶴。プールの前で風間千景が待ち伏せしてたのか」
「待ち伏せかどうか、わからないけど」
「あいつも、しつけえよな。千鶴、なんかあったら、直ぐ俺を呼べよ。助けてやるからな」

 翌日、風間が現れた事を聞いた総司と斎藤は、これから毎日バイト帰りは家まで送って行くからと約束してくれた。


****

風間千景の襲来



 バイトのシフトに慣れた8月の初旬。プールではイベントが催され、朝から利用客で満員だった。午後に開かれるサマーサバイバルシューティング大会は、勝ち抜き戦で、優勝者には、カフェのカップルシートと食事券がプレゼントされる。
 斎藤と千鶴は朝からカフェのシフトで忙しく働いていた。その日は、教員研修から戻った土方、原田、永倉が、斎藤達の働く様子を見ようと朝からプールに来ていた。土方は、黒のサーフパンツ、原田は、茶色のトロピカルサーフパンツ、永倉は、緑のサーフパンツを履いていた。三人で、プールに入り、プールサイドの椅子で寝そべって寛いでいる。

「やれやれ、こうして見てると、土方先生達って、オジサンだなあ」
 平助が、プールサイドを眺めて笑っている。
「オジサンは可哀想じゃない? ま、土方さんはオジサンだけどね」
 総司も笑った。

 カフェの千鶴の担当テーブルに、風間千景、天霧九寿、不知火匡が座っていた。

「雪村千鶴、一緒にここに座れ」
 豹柄のサーフパンツに白地に薔薇が描かれたバスローブを着て、風間は笑いながら、自分の隣の席に千鶴を座らせようとした。
「今はバイト中です。そんな事は出来ません」
 千鶴が断って、離れようとすると。
「もう一度いう、ここに座って話を聞け」
 千鶴は、お盆を抱えたまま、言われた通りに座った。
「今日のお前のバイトは、俺様の相手をする事に決まっている。だから、給仕はせずとも良い。ここで一緒に食事をしろ。何を飲む?」
「仰っている事の意味がわかりません。仕事中なので、失礼します」
 そう言って、千鶴は席を立ち上がろうとした。
「待て、雪村千鶴。ここの経営会社は風間グループの傘下だ。さっき、このカフェの責任者にお前の今日の仕事について話はしてある」
 千鶴は、それでも満席のカフェで休む事は出来ないと言って、立ち上がろうとすると、風間が千鶴の手を取った。その瞬間、

「その手を放せ」

 斎藤が、風間の喉元にボートのオールの柄を突き付けた。

「オーダーであれば、俺が代わりに伺おう。雪村、厨房でマネージャーが呼んでいる」

 斎藤が冷静にそう言うと、千鶴は「はい」と返事をして掴まれた腕から逃れて厨房へ走って行った。
 風間は「雪村千鶴を寄越せ」の一点張りで話にならない。監視台から様子を見ていた総司が、土方達に風間達がトラブルを起こしているようだと告げると、土方、原田、永倉の三人が、風間の前に立ち塞がった。

「おい、風間。バイト中の者に客以外の用向きで現れたんなら、ここを出ろ」
 土方が睨みを利かせて、凄んだ。
「ここへ客以外の用で来るのは、貴様達だろう。休みだというのに、生徒と群れて騒ぐは犬猫の如く」
 風間は、皮肉な表情で土方を見上げている。
「試衛館の犬どもが」
「なんだと、風間、俺ら学園の教諭がお前に犬呼ばわりされる筋合いはねえよ」
 土方が吐き捨てる。
「こんな公共の場所で、ウェイトレスに嫌がらせするような下衆を、俺たちは許しておけねえって言ってんだよ」
 原田が、腕組みをして前に立った。
「そうだ、お前ら、外に出やがれ、この」
 新八が拳を手の平に打ち付けながら凄んだ。

「今日は客として、同時に経営者としてこの施設の視察に来ているだけだ。従業員である雪村千鶴に1日相手をするように命令する事に何も障りはない」

 風間は涼しい顔をして揶揄するように笑う。

「今日は、お前達もここに遊びに来たのであろう。ならば、お前達と一つ勝負をしよう」
 そう言って、SSS大会の会場を指差した。
「あれで、真っ向勝負をして、勝った者が雪村千鶴と1日を過ごす」
「おい、千鶴を勝負の景品にするな」
 原田が、風間の胸ぐらを掴んだ。その腕を不知火が横から掴み、凄い力で放させると。
「原田先生よ。あんたらが勝ったら、俺たちはここを引き上げる。公平な勝負じゃねえか」
 そう言って笑った。

 土方達が勝負を受けると承諾すると、天霧が大会事務所にエントリーに向かった。風間チームの三人と三回戦勝負。薄桜学園チームは、土方達教諭以外に、斎藤と千鶴もエントリーされた。カフェの仕事が終わって。監視員の業務も大会開催中は必要がないと言われた斎藤と千鶴はSSS会場に向かった。

 ******

サマーサバイバルシューティング(SSS)大会

 大会ルールはシンプルなものだった。

 各チーム三人で戦う
 開始の後に敵の陣地に2名のみ入る事が出来る
 各選手胸にビブを付ける
 相手のビブの真ん中を一定量の水で濡らすと、センサーが働いてビープ音が出る
 一度だけ、ビープ音は自分の陣地のセーブポイントにタッチすると消す事が出来る
 2回目のビープ音で選手アウト
 先に全員アウトになると負け

 一回戦は、土方、原田、永倉のチームが出た。風間チームの連携と素早い動きで、永倉、原田、土方の順でアウトになってストレート負けした。斎藤は、土方達の様子を見て、次の作戦を立てた。

 壁に雪村を待機させて、そこに敵を陽動して一気に攻める。

 斎藤は振り返って千鶴を見た。千鶴は斎藤を見上げるように立っていたが、今日はいつものピンク色のワンピース水着ではなく、白地に小さな花柄のビキニ姿だった。斎藤は、千鶴の胸もとからくびれた腰、足先まで見てしまい。心臓が喉まで上がって来たかと思うぐらい驚いた。

 可愛い、可愛すぎる。

 でもこの格好で、戦わせたくない。雪村の、胸を目掛けて風間達が水をかけて来るなど、絶対にさせてなるものか。いかん。いかん。でもどうすれば良い。

 斎藤は咄嗟に自分のTシャツを脱いだ。千鶴にコレを着てビブを付けた方がいいと渡した。千鶴は、斎藤に礼を言ってTシャツに頭を通した。ビキニの胸の下に小さなホクロが2つ綺麗に並んでいるのが見えた。

 いかん、いかん。何を見ているのだ。

 斎藤は独り赤面しながら、不埒な自分を諌めた。

 気を取直して作戦だ。

「雪村、左の壁に隠れて待機だ。俺たちが風間を誘って壁に連れて来る、雪村は壁の影から風間達を打て、いいな」
「はい」
「セーブポイントは雪村の背後にある、万が一風間達に撃たれても、1回は音を消して試合に復帰できる。壁から動かないように」

 斎藤が話す背後に、原田が新しいビブを付けて立っていた。

「俺は、不知火と天霧を攻める。斎藤、お前は風間だ。いいか、斎藤。風間は顔を濡らされるのが嫌みたいだ、あいつの顔を攻めると、動きが鈍くなるぜ」

 第2回戦が始まった。斎藤の作戦通り、壁への陽動作戦が功を奏した。天霧も不知火も壁際の千鶴と斎藤の集中攻撃にあって撃沈。風間が、壁の手前で粘ったが、原田が顔攻撃をすると怯んだ。千鶴が壁から出たところを、

「我が妻を生け捕りにしてくれるわ!」

 風間は叫び、紅い目をギラつかせて撃って来た。斎藤は自分の背中で千鶴を庇った。
 千鶴は怯えながらも、斎藤の影から打ち続けて、風間は撃沈。

 三回戦目は斎藤、土方、永倉で同じ作戦で戦った。今回は、土方が壁に隠れて、壁から集中攻撃。風間は土方を追いやり、一度ビープ音を鳴らしたが、土方は直ぐにセーブポイントで復活、後ずさる風間を撃沈した。天霧と斎藤の一騎打ちは白熱したが、陣地に誘い込みセーブポイント前で同じく撃沈した。あとは逃げる不知火を全員で追い込んで討ち取った。薄桜学園チームの勝利だった。その後、千鶴、斎藤、原田の三人で勝ち抜き戦の決勝に進み見事に優勝した。

 風間は、天霧達を引き連れて帰って行った。散々迷惑をかけて、勝負まで吹っ掛けておきながら、帰り際、千鶴に、

「雪村千鶴、今度は納涼祭の夜に会おう」

 まるで約束でもしたかの様に機嫌よく去って行く風間に、土方達全員が心底呆れ果てていた。

「あいつ、一体なんだよ」平助が怒って言うと。
「土方さんよ、風間は、生徒会でも好き放題やってる。手芸部に和裁道具一式を用意するって裁縫室も一新したと思ったら、金キラの反物を届けさせて、千鶴に『俺様の浴衣を縫え』だってよ。手芸部の顧問が苦笑いしてたぜ」
 原田が溜息をついた。
「あの【我が妻】呼ばわりが引く。新手のストーカーって事も考えられる。おい、斎藤」土方が呼び掛けた。
「風間はここの経営者だとか言っている。バイト中に何かあったら直ぐに報せろ。それと、千鶴についててやれ」土方が斎藤に指示した。

「はい」斎藤が返事をした。



****

 風間の騒動が終わって、バイトの片付けも終わり全員で家路についた。

「あの風間って、もうとっくに成人してるんだって。社会人が何が楽しくて高校通ってんだろうね」

 総司が呟いた。

「聞いた。土方さんの大学の後輩で。学年は左之さんと同じだって」

「あとさ、不知火っているじゃん。あれは、左之さんが学生だった頃、渋谷界隈じゃ知らない人がいない位有名で。現役学生なのにイベント会社立ち上げて、パーティとか主催してさ。今もベンチャーやってんだって。風間ともそれで連んでるってよ。あいつも高校通うって謎だよな」

「じゃああの人も、原田先生と同じオジサンってことか」総司が笑う。

「そんな事言ったら、天霧だよ。噂だと近藤先生より歳上らしい」平助が、頭の後ろに手をやって笑う。

「そうなの?」

「うん、風間コンツェルンの専務取締役っていう噂だよ。経営は役員がやってて、天霧がその中の一人。風間があんなだから、監視役してるって聞いたよ」

「益々、謎だよな、あの生徒会役員たち。千鶴もいい迷惑だよ」

 平助たちと別れた後に、斎藤は千鶴を送って行った。

「今日は長い一日だった。明日は久しぶりに休みだな」

 斎藤が、一番星を見上げながら言った。

「はい。今日は、朝から満員で忙しかったですね。SSS大会、楽しかったです」

 笑う千鶴の横顔を見て、斎藤は安堵した。突然の風間達の業務妨害も言い掛かりのように吹っ掛けられた勝負も、千鶴はあまり気にかけていない様子だった。

「あと一週間で納涼祭ですね」

「ああ、剣道部ではドリンクスタンドを出す」

「原田先生が、屋上で花火が上がるって」

「ああ」

「学校のプールから見ると、水面に映って綺麗だ」

「そうなんですね。見て見たい」

「……見に行こう」

 斎藤は、思い切って千鶴を誘ってみた。

 千鶴は、嬉しそうに斎藤を見上げながら「はい」と返事をした。


****

薄桜学園納涼祭


 納涼祭の日、千鶴達は朝のうちに剣道の稽古をして、ドリンクスタンドを準備した。夕方に体育館前で集合と決まっていたので、千鶴は一旦家に帰った。陽が傾いて涼しくなった四時半頃に斎藤が家に立ち寄って迎えに来てくれた。斎藤は、千鶴が浴衣を着て玄関から出て来た時、その姿に驚いた。千鶴の纏う浴衣は、白地に淡い桔梗が描かれ、薄い紫の帯を締めている。いつもは髪を横に一纏めにしているが、今日は上に結い上げて、紅い簪をさしていた。

 可愛い。可愛すぎる。

 斎藤はぼーっと見惚れてしまった。千鶴は恥ずかしそうに伏し目がちに、袖を伸ばしながら、ポツポツと話す。手芸部で浴衣を縫って、四月からかかってようやく仕上がった。隣家のおばさんが綺麗に着付けてくれた。母さまが使っていた簪をさしてみた。
 斎藤は、ただ聞いている事しか出来なかった。可愛い、と言っていいものなのか。そのような自分の感想など、雪村は聞いても仕方がないのではないか。そんな事ばかり考えているうちに学校に着いてしまった。校門をくぐると、既に校庭には夜店がでて、生徒や家族が大勢集まっていた。千鶴の浴衣姿を剣道部員は皆喜んだ。8時に始まる花火まで、交代でドリンクスタンドの手伝いをする事になった。
 千鶴と斎藤は、ドリンクスタンドを手伝った。暑いこともあって飲み物は飛ぶように売れた。斎藤が、ペットボトルのケースをもう一個持って来るからと、体育館に走って行った。「雪村千鶴」と呼ばれて、顔を上げると、スタンドの前に風間が立っていた。白地に金の模様の描かれた派手な浴衣姿で、いつもの取り巻きも一緒に立っていた。

「祭りだというのに、 またこの様に売り子の様な真似を」
「風間さん、何になさいますか。後ろに並んでいる方もいます。飲み物をお買いにならないなら、列を開けて貰えませんか」
 千鶴は、出来る限り丁寧に対応したつもりだったが、
「開ける必要はない。たった今、ここの商品は全て売り切れた。俺様がこのスタンド自体を買い取った」
 そう言って、天霧に後ろの列に並んでいる人達を払わせている。
「さあ、もうこの様な雑用はせず、俺様と来い。もうじきに花火が上がる」
 そう言って微笑みながら、千鶴に手を差し出して来た。
「風間さん、勝手な事は言わないで下さい。ここの飲み物は、お祭りに来た人達に飲んで貰う為に用意したものです。買い取りなど出来ません」
「どうした、雪村」

 背後から斎藤の声が聞こえた。斎藤はドリンクケースを足元に置くと、千鶴の前に立った。後ろ手で千鶴をそっと庇うように手を伸ばした。千鶴の右手に斎藤の右手が触れた。

「飲み物を買わないなら、引き取って貰いたい」
 斎藤は冷静に風間とその取り巻き達に言った。
「たった今、ここはスタンドごと買い取った。貴様はこれを全て生徒会室に運んでおけ、良いな」
 風間は、斎藤にそう命令すると、千鶴に手を伸ばした。
「さあ、雪村千鶴、空から花火が見られる良い場所に連れて行こう。お前はきっと気に入る」
 微笑みながら、風間が手を差し出す。
「私は、あなたと花火は見ません」
 千鶴はキッパリと断った。
「もう一緒に花火を見る人と約束しています」

 千鶴はそう言って斎藤の手を握りしめた。風間に無理矢理連れ出される恐怖で心臓が縮む思いがしたが、斎藤に手を握り返されて、手の震えが止まった。

「どこまでも、その様に逆らうとは。では今宵はこのままにしておいてやろう。だが、雪村千鶴。文化祭はお前は俺様と寄り添い、一日一緒に過ごす。後夜祭もだ。よいな」
 そう言うと、取り巻き達と一緒にスタンドの前から去って言った。
「はじめくん、千鶴。遅くなって悪りぃ」平助が校舎の向こうから走って来た。
 斎藤は、千鶴に振り返ると、
「雪村、平助と交代したら、プールに行こう」
 そう言って、千鶴の手を引いて自分の前に立たせた。ただ笑ってお互い見詰め合うだけだが、なんとも言えない気持ちになった。平助と交代しながら、ドリンクをケースから取り出して氷水につけて冷やした。

「すまん、さっき並んでいた人達が、売り切れだと思って、列がなくなった。呼び込みをする必要がある」
 斎藤が、平助にそう言って謝った。
「今から、斎藤先輩と校庭を回りながら、呼び込みをします」千鶴が明るく笑って言った。
「お、千鶴、はじめくん、ありがとう。もう直ぐ、総司も戻って来るから、ここは大丈夫だ」平助はそう言って、お祭りの団扇を振って千鶴達を送り出した。

「ドリンクスタンドは体育館前です。冷やした飲み物用意しています!」
 そう呼び掛けながら、校庭を一周ぐるっと回った。スタンドの前に再び列が出来、総司と平助が忙しそうにしている様子が見えた。斎藤は千鶴を連れてプールサイドへ向かった。殆ど、照明もなく暗い更衣室の建物の横を抜けて階段を上がった。千鶴の下駄の音と、遠くに校庭から音楽が流れているのが聞こえた。階段の上から斎藤が手を差し伸べた。千鶴は斎藤の手に自分の手を載せると、骨張った手でしっかり握り締められた。千鶴は、さっきと同じように、安心感と嬉しさで胸が温かくなった。

「今は、暗くて心許ないが、花火が上がると、一気に明るくなる」

 そう言って、斎藤はプールサイドを千鶴の手を引いて歩いた。飛び込み台の前に立つと、辺りのベンチに既に何人か座って花火を待っている様子だった。

 ドン、っという大きな音が聞こえて、目の前が真っ白な光に覆われた。夜空に美しい花火が上がり、プールの水面に映って、辺り一帯に美しい輝きが拡がっていく。一個上がると、消えて。また黒い水面に戻り、またドーンという音の後に異なる色と光が拡がる。幻想的な光景に千鶴は、うっとりとなっていた。花火の光でキラキラと瞳が輝く千鶴の横顔をみた斎藤は、嬉しそうなその表情を見て満足した。
 最後の花火は一段と大きく美しく拡がった。千鶴はずっと、夜空を見上げて余韻に浸っていた。斎藤は千鶴の手を引いて、そっと飛び込み台に座らせた。それから持って来た冷たいペットボトルのジュースを千鶴に差し出した。

「今日も早朝から稽古で、長い一日だった」
「本当に。あと一週間で夏休みが終わるなんて。あっと言う間でした」
「バイトもこの週末で終わりだな」
「そうですね。きっと最後の週末で人出が多いだろうな」
「雪村、あそこのウォータースライダーは乗った事があるか?」
「いいえ、まだ一度も。私、あそこの流れるプールも入った事がなくて」
「それなら、休み時間に行こう」
「はい」

 そんな他愛のないことを話し、お祭りの片付けをして帰った。バイトは最終日まで忙しく、終わった後に、慰労会だといって4人でファミレスで食事をして帰った。夏休みの残りは、朝練とその後に図書館での宿題の総仕上げに充てた。いつも、斎藤が数学の解らないところを丁寧に教えてくれる。図書館には、涼みに来てるだけだと言って、隣でスマホをいじっては総司は悪戯を仕掛けて来る。総司はとっくに七月中に宿題を終えていた。平助の話では、総司は、勉強もしないのに常に上位の成績らしい。斎藤も、総司が本気を出して勉強すれば、学年トップだと言う。だが、剣術以外の努力は悪戯以外はしない。そう言って笑っている。

 新学期が始まって間も無く、バイトのお給料の振込があった。1人約30万円。4人で合わせると120万。夢の百万円を超えたので。全員満足だった。早速、校長の近藤に試衛館再建の寄付を申し出た。近藤は、総司達の申し出に感動し、目には涙を浮かべていた。再建工事は順調に進んだ。中間テストと文化祭が終わった十月半ば、試衛館道場のリフォームは完成した。

 道場完成お披露目の式が催された。芹澤や風間も招待されて、道場の大広間で宴会になった。相変わらず、風間は自分の隣に雪村千鶴をと要求して、土方達に呆れられていたが、総司を始め、試衛館で剣術を学び育って来た近藤の子弟は、道場再開を喜んだ。剣道部の部活とは別に、斎藤達は道場での稽古も励んだ。

 その後、試衛館は門下もどんどん増えて行った。近藤は、冬の間、斎藤と総司に厳しい稽古をつけた。斎藤と部活以外では殆ど会う機会のなかった千鶴は、芹澤邸で開かれたクリスマス会の帰りに、斎藤に初詣に誘われた。 生まれて初めて大晦日から二年参りをした千鶴は、秋口からずっと編んでいた、アーガイルのベストを斎藤に贈った。斎藤は喜び、三学期から毎日制服の下に着て学校に通った。

 二月のバレンタインの日、千鶴は剣道部員と斎藤には特別に作ったチョコレートを渡した。斎藤は稽古に没頭し続け、ようやく高校三年に上がる春休みに、総司と一緒に指南免許を取得した。

 新学年に進級すると、風間は相変わらず三年生のまま。総司達と同じ学年だった。何年も【自主留年】しているため、高校の課程は目を瞑ってでもこなせるらしく、成績は常にトップ。毎日学校に来るのは「薄桜学園をより高みに上げる」為。そんな事を毎週の朝礼でスピーチしている。

「風間が迷惑をかけているようなら、いつでも自分たちにメールを」と天霧と不知火に言われていた千鶴は、たまたま学校の外で出会った不知火に、風間は何故進学しないのか、と訊いてみた。
「ま、あれだな。あいつは嫁が出来るまで卒業出来ねえからな」

 そう言って、笑いながら去っていく不知火の背中を見ながら、千鶴は、余計に風間達が謎の存在に思えた。

 学校創始者の1人である風間は、その後も変わらず、千鶴に御執心で。

 雪村千鶴は、毎休み時間に生徒会室に行き生徒会長と歓談する
 雪村千鶴は、毎朝生徒会長と一緒に通学する
 雪村千鶴の制服を白にして生徒会長とペアルックにする、等

 新校則案を生徒会に提出しては、土方に片っ端から却下されていた。

 斎藤は、大学進学の準備と試衛館での剣術指南に打ち込んだ。千鶴は忙しい斎藤に寄り添うように、図書館での勉強や試衛館の稽古を一緒に励んだ。二人は互いに想い合うようになっていた。斎藤の隣に千鶴。千鶴の隣に斎藤。試衛館メンバーはそんな二人をそっと見守るようになった。

 斎藤は薄桜学園を卒業して、大学に通うようになってからも、総司と一緒に試衛館で剣術指南役を続けた。千鶴は最終学年の間、学校帰りに試衛館に立ち寄って、稽古の後に斎藤と一緒に帰る、そんな毎日を過ごした。やがて千鶴も大学生になり、二人は真剣に付き合い始め、後年結婚した。千鶴にとって、高校1年の夏のプールサイドでの出来事は、優しい夫、はじめとの馴れ初めで。いつまでも眩しい特別な思い出になった。





→次話 FRAGMENTS 1

コメントは受け付けていません。
テキストのコピーはできません。