雨宿り 原田左之助篇分岐ルート
千鶴の瞳は、涙が溢れそうになっていた。せめて、濡れた着物を乾かしてください。脱いでくだされば、私が火鉢で乾かします。私は、原田さんがお休みになっている間、ずっと背中を向けていますから。
一生懸命な千鶴の表情を見て、左之助は微笑んだ。一度決めたら、決して曲げない。芯の強い女だったな。左之助は千鶴の肩から手を離した。
「じゃあ、千鶴。俺はあの衝立の向こうで濡れた着物を脱ぐ」
「千鶴は、このまま」
そう言って、傍らの上掛けを千鶴の背中から掛けて綺麗に包んでしまった。
「簀巻きみたいだが、こうしていてくれればいい」
「俺も、もう一枚の布団に包まって休む。傍にいるから心配はねえ。いいな」
千鶴は頷いた。衝立の向こうで、左之助が「寒い、寒い」と呟く声が聞こえたが、暫くすると紅絹の敷き布団を身体に巻いた左之助が現れた。
「太巻きだ」
そう笑って二人で火鉢を挟んで座った。それから千鶴は、安心したように座ったまま居眠りを始めた。左之助は胡座を掻いた上に簀巻きの千鶴を抱きかかえて自分もうつらうつらとしながら朝まで眠った。
左之助たちが泊まった【いろは茶屋】は、屯所の誰も知らない左之助の秘密の出入り茶屋だった。朝になって千鶴を迎えに来た相馬主計や野村利三郎が、四条界隈の旅籠を虱潰しに探したが、全く見つからず二人は肝を冷やした。二人が汗だくで千鶴と左之助を探している間に、左之助は千鶴と茶屋を後にして、三条大橋を渡って屯所に帰った。
終わり