チョコレート 吐息

チョコレート 吐息

FRAGMENTS 1

 朝、学校に行こうとしたらLineが入っていた

 Swordmanは沖田先輩のハンネ。

 Swordman: おはよう!!今はじめ君と新幹線乗ってる。
 Chizuru: おはようございます。
 Swordman: はじめくんの寝顔

 沖田先輩は、斎藤先輩が新幹線の窓にもたれて目を瞑っている写真をLINEしてくれた。

(よほど疲れているんだな)

 千鶴は、先輩の写真を拡大して微笑んだ。沖田と斎藤は、今は大学生。薄桜学園を卒業してからは、試衛館道場の師範代として門下生を教えながら、大学にも通っている。一月から始まった剣術試合で全国を飛び回っている。二人とも大忙しだった。そして、千鶴も今は大学受験の真っ只中。一月のセンター試験から始まって、一般入試を今週は控えている。もう、二か月近く千鶴は、斎藤と逢えていない。

 バレンタインのチョコレートも斎藤先輩に渡せていないまま。

 千鶴は溜息をついた。必ず、夜寝る前には互いにLINEしあっている。昨日の夜も、「おやすみ」を言い合った。剣術試合から帰って、千鶴の試験が終わったらデートをしようと約束はしている。千鶴は、その時にチョコレートを渡そうと思っている。密かに計画を立てている。

 チョコレートケーキを焼いて、先輩に食べてもらう。
 家に先輩に来て貰って。

 千鶴は、スマホを胸にあてて窓の外を眺めた。高校一年生の時、バレンタインデーに斎藤先輩にチョコレートを渡して、春休みに先輩と付き合い始めた。あれから二年。先輩は今は大学生になって、週末に逢っている。不思議なのが、千鶴が斎藤を自宅に誘っても斎藤は絶対に家の中に入ろうとしない。

 沖田先輩や平助君が一緒の時は、自宅に来てくれるのに……。

 リビングやお台所、私の部屋にも来て皆と一緒に過ごすが、なぜか千鶴と二人きりの時は玄関までで、決して家の中に入ることはない。千鶴は、最初は気に留めていなかったが、夏の暑い日、夕方に家まで送ってくれた斎藤に、「上がって冷たい飲み物を」と玄関で言っても頑なに断って帰ってしまった。

 千鶴は、斎藤と二人で夕飯を食べてみたかった。お料理のレパートリーも増えた事だし。先輩に食べてもらいたい。外でお弁当を持ってピクニックも楽しいけれど。こう寒いと温かいシチューやグラタンを家で食べた方が絶対美味しい。そんな風に思っていたときに、総司から斎藤が千鶴の家に入って行かない理由を聞くことが出来た。

「けじめなんだってさ」

 付き合っているからこそ。独り暮らしの雪村の家に上がり込むことはしたくない。

「そう言ってたよ」

 総司は笑っている。

「なんかさ、【上がり込む】って。討ち入りみたいじゃない?」

 イヤラシいよね、はじめくんって。

 千鶴が頬を紅くして何も言えなくなっているのを、総司は上から眺めて更に面白がった。

「けじめをつけたら、きっと【上がり込む】よ」

 斎藤がその場に居ないのを良いことに、総司は笑って千鶴をからかい続けた。


 これが去年の秋ぐらいのこと。千鶴は気にしないようにしていた。だがクリスマスのディナーも自宅に誘っても、イルミネーションを観に隣町まで出掛けることになった。凄く楽しかったが、自宅の前で別れる時はさびしくて。千鶴は斎藤の腕の中に入って抱きついた。斎藤は、やさしく千鶴の肩に手を廻して、「受験が本格的に始まるから頑張るように」と言うと頬にキスをして帰ろうとした。繋いだ手を千鶴は放さなかった。斎藤はもう一度、千鶴をしっかりと抱きしめて唇にキスをした。

 あの日以来、ずっと逢えていない。もう二ヶ月も。

 千鶴はしーんと寂しさが胸にこみ上げた。もう、絶対にケーキを食べに来て貰う。絶対に。

 そう強く決心をしてバスを降りた。



*****

 学校が終わってから自宅について、千鶴はLINEした。

 Chizuru: 先輩、おかえりなさい。
 H.Saito: 今朝戻った。こっちは寒いな。
 Chizuru: 先輩、私一般入試は受かった気がします。
 H.Saito: そうか。結果は明後日だな。
 Chizuru: 先輩、明日の夕方は空いてますか?
 H.Saito: 稽古の後なら。7時に終わる。
 Chizuru: 先輩、私夕飯作ってます。食べに来てください。
     チョコレート渡したい♥♥
 H.Saito: 相解った。


 千鶴は驚いた。あっさりOKを貰えた。先輩、来てくださるーーーー!!千鶴はベッドに寝転がって傍のテディベアを思い切り抱きしめた。嬉しい。シチュー? グラタン? ハンバーグ? 何がいいかな。それに、ケーキ、ケーキ。チョコレートケーキも焼かなきゃ。ケーキは朝焼いてから学校に行こう。待って、材料を買って来なきゃ。千鶴はベッドから起き上がると、またコートを来て買い物に出掛けた。

 翌朝、朝からスポンジケーキを焼いた。綺麗に出来た。このまま冷ましておいて、学校から帰ったらデコレーション。夕飯は、ハヤシライスにした。材料も買ってある。学校から急いで帰って来よう。千鶴は張り切って登校した。

 そして夕方。

 全てが完璧。千鶴は嬉しくて仕方がない。斎藤先輩、稽古できっとお腹が空いてる。いっぱい食べて貰おう。そう思って、いつもの倍はお米を炊いておいた。そして、7時20分を過ぎた時に玄関のチャイムが鳴った。千鶴は、玄関に飛んでいった。斎藤は、剣道具一式を持って玄関に立っていた。髪が、いつもより短い。久しぶりに会う斎藤は、大人のようで、前より肩幅も広く大きく感じてどきどきした。

 斎藤は玄関のドアを開けた千鶴を見て驚いた。髪を片側を上げて綺麗な髪留めで留めてある。片側の耳をみせている首筋がすっと伸びて、セーターの襟元にはちいさなペンダントが見えた。去年、自分が送ったもの。それが、美しい鎖骨の上に鎖が流れているのが見えた。綺麗だ。

 綺麗だ。

 目の前の千鶴が綺麗で動けない。千鶴は、寒かったでしょう? 先輩、さあ入ってくださいと笑っている。腕を引かれるままに玄関の中に入った。千鶴がスリッパを用意して、どうぞと言う。斎藤は、言われるがままに上がって、ぼうっと千鶴に付いていった。ふわふわとする。なんだ。この感覚は。

 千鶴は笑顔でテーブルに座った斎藤に話しかけている。今晩はハヤシライスです。そう言って、テーブルにサラダを並べて、斎藤の前にハヤシライスの皿を置いた。そして自分の分もよそって、斎藤の前に座る。

 いただきます。

 千鶴は嬉しそうに笑っている。

 美味い
 うますぎる

 斎藤は、一気にひと皿を平らげると、千鶴がおかわりをよそった。二皿目もぺろりと斎藤は平らげた。千鶴は、さらに三皿目をよそった。斎藤は直ぐに平らげた。

 先輩、四皿目行きますか?

「ああ」

 斎藤は微笑みながら座っている。千鶴は驚いた。こんなにハヤシライス好きだったんだ。嬉しそうに食べ続ける斎藤を見て千鶴は幸せだった。

 食事を終えて、千鶴はチョコレートを渡したいと、冷蔵庫からケーキを取り出した。斎藤は、ハート型のケーキを見て頬が紅くなっていた。

「雪村、すまん。チョコレートは嬉しい」

「嬉しいが、これは全部入らん」

 千鶴はきょとんとした顔をしている。

「すまん、ハヤシライスを食い過ぎた」

 斎藤は頬を紅くしたまま呟く。千鶴は、わかった。斎藤は大食漢を自負している。食べ物を残すことを武士の恥だと、よく普段から言っているのを思い出した。小学生の頃は、【ぺろり賞】で表彰もされていたらしい。

 千鶴は、斎藤が両手を膝に置いて真剣に謝る姿に、胸がキュンときてしまった。大きなケーキを全部食べたいと思って貰えているだけで幸せだった。

「先輩、食べられるだけ。もし一口も無理なら、別の日に焼き直します」

 千鶴は笑顔で言った。斎藤は、半分は行けるといって笑っている。そして、実際半分をぺろりと食べてしまった。千鶴は、紅茶を入れながら美味しそうに食べる斎藤を眺めているだけで幸せだった。

「雪村、馳走になった。全部、美味かった」

 斎藤は満足そうにリビングのソファーの背もたれにもたれた。それから一度大きく息をつくと、

「千鶴」

 そう呼びかけた。千鶴は、リビングの床に膝をついたままテーブルの片付けをしていた手を止めた。

(今、先輩。わたしを呼んだ? 「ちづる」って)

「千鶴」

 やさしい斎藤の声で再び名前を呼ばれた。千鶴は斎藤の目を見詰めた。

「はい」

「これから、俺のことを『先輩』ではなく、名前で呼んで欲しい」

 斎藤の頬は再び紅くなっていた。

「俺も、千鶴を名前で呼びたい」

「はい」

 千鶴は、茫然とした調子で返事をした。

(名前……)

「はじめさん、でしょうか?」

 斎藤は、だんだんと真っ赤になっていった。そして、こっくりと頷いた。千鶴は、だんだんと斎藤の恥ずかしそうな様子が自分にも伝染してきてしまった。

 下の名前で呼び合う。

 本当に恋人同士みたい。先輩を「はじめさん」って。なんて、特別なことだろう。

 千鶴はふわふわとした気分で体中が充満してきた。

「はい、はじめさん」

 小さな声で返事をしてみた。ソファーでじっと膝に手を置いたままの斎藤は真っ赤になっていた。千鶴も自分の耳までカアッと熱くなる感じがした。暫く二人で動けないままになってしまった。

 斎藤の手がテーブルの上の千鶴の手に伸びた。そっと引かれて気がつくと、斎藤の腕の中にいた。頬に斎藤の大きな手がかかる。

「千鶴」

 伏し目がちの斎藤にそう呼ばれた。首を傾けるように斎藤の顔が近づいた。千鶴はそのまま目を瞑った。

 斎藤の唇が自分の唇に重なる。

 ほんのりとチョコの香りがした。

 背中にまわった斎藤の大きな手を感じながら、千鶴は甘いやさしい気分に包まれた。

 初めて名前で呼び合った。
 チョコレートの甘い香り。

 ゆっくりっと唇が離れ、斎藤の碧い両目が見えた。

 優しいそのまなざしに向かって、

「はじめさん」

 千鶴も、静かに呼びかけた。


****

吐息

 はじめて互いに下の名前を呼び合った夜。

 もう今日は4回目のキスをした。最後のキスは今までで一番長く、初めての深い口づけだった。千鶴はどうしようかと思った。じっと身体は動けなくて、終わった後は恥ずかしくて俯くしかなかった。上からじっと斎藤に見詰められているのは解っていたけれど。

 一旦斎藤の膝の間から離れて、テーブルの片付けをした。お皿を台所に持って行って、そのままお皿を洗った。洗い物をしていると、やっとドキドキしていた心臓が落ち着いてきた。
斎藤先輩、紅茶のおかわり飲むかな。千鶴は、もう一度ポットを火にかけた。お皿を洗い終わって、テーブルに戻ると。斎藤は、さっきと同じままじっと背筋を伸ばして座っている。千鶴と眼が合うと、頬が紅くなっていた。

 急に立ち上がった斎藤は、ダイニングに置いてあった鞄を持って来た。千鶴は、お湯が沸いたので、紅茶を準備した。アップルティーは千鶴の好きな茶葉。ミルクを入れても美味しいが、レモンも合う。

「春休みに、ずっと東北に行くことになった」

 斎藤はソファーに戻ると、鞄から何か資料のようなものを取り出して千鶴に見せた。

「試衛館道場と他道場の交流で、道場を代表して俺は福島と仙台に行くことになった」

 千鶴は渡された資料を見てみた。他県の道場で天然理心流の演舞と形見せ。他道場に滞在中は、そこで稽古をつけて貰う交換稽古を行うようだった。無外流剣法、小野派一刀流とある

「三月の終わりの二週間だ。会津若松に10日間。仙台に3日間。会津では、近藤先生もみえる。仙台は、土方先生と総司と一緒だ」

「二週間ずっとですか」

 千鶴は日程を見てみた、ちょうど千鶴の春休み中と重なる。千鶴は卒業式の後は、三月の二週目からずっと休みだが、まだ何の計画も予定も立ててなかった。明日の大学入試結果が解ってから、計画を立てるつもりだった。もちろん、斎藤と出掛けたりするつもりだった。でも、都内に居ないのなら仕方ない。先輩が忙しいのは理解している。

 黙っている千鶴を見て、斎藤は思い切って誘ってみた。

「一緒に行かないか? 会津に」

 千鶴は驚いた。突然の事で、他道場との交流に千鶴が同行してもいいのだろうか。会津若松。確か、白虎隊の場所だったような。小さい時に父様と一度行ったことがある。遠い記憶。まだ本当に小さかった。

「はい」

 千鶴は行きたいと返事をした。春休みは長い。その間、斎藤に逢えないことは考えられなかった。同行できるならどこでも付いて行きたい。斎藤の稽古を見学できるかもしれない。千鶴は、だんだんと実感が沸いてきた。

「この資料だと、先方の主催者が宿を用意してくれるらしい。近藤先生は、会津にはいい温泉があると行って喜んで居られた。もしかしたら、温泉宿に泊まれるかもしれん」

 千鶴は、温泉宿と聞いて旅館に泊まるのかなと思った。温泉は長く行っていない。修学旅行で、ホテルの大浴場にクラスのお友達と入ったきり。近藤先生もご一緒なら、修学旅行のようなものかしら。楽しそう。千鶴はワクワクしてきた。

「私、会津若松は小さい頃に父様と旅行に行ったことがあります。【さざえ堂】とか、お城とか、とても綺麗でした」

「俺は会津には行ったことがない。母方が会津に由縁があるとは聞いているが、親戚とも面識はない。無外流の道場主とは、試合や交流稽古で何度も会っている。とても良い人だ。今回は居合いを習えるのが一番の楽しみだ」

 斎藤は嬉しそうに話す。千鶴は斎藤の隣に座って一緒に資料を眺めた。やはり滞在の長い、会津若松に千鶴が行って、長い滞在が無理なら先に東京に戻るか、先に斎藤が行って、後で追い掛けてもと話していると、二人でできるだけ長く会津に居て、稽古の合間に観光をしようと盛り上がった。

「温泉は、東山温泉ですね。私、温泉は大好き。はじめさんは?」

「俺も好きだ。遠征先ではできる限り源泉掛け流しの湯を探して入っている。総司は、面倒がるが、いつも俺が行くというと付いてきては、一番長く湯につかって寛ぐ」

 千鶴は、露天風呂に入る事を想像するだけでワクワクしてきた。

「先輩、私はどこでもお伴しますよ」

 笑顔で斎藤を見上げる千鶴に、

「はじめだ」

 そう言って、また手を引いて抱きしめられた。アップルティーはすっかりぬるく冷めてしまっていたが、斎藤の膝の間に座って二人で飲んだ。沸かし直したお湯を入れて、再び熱い紅茶を飲んだ。背後から抱き上げられた千鶴は斎藤の膝の上に座ったままゆっくりっとキスをされた。

 五回目のキス。

 アップルティーの香りがする。千鶴はだんだん頬が熱くなってきた。斎藤が首を傾けて、唇をついばまれた。暖かい。腰に廻された手で強く抱き寄せられる、千鶴は斎藤の首に手を廻した。舌を絡め合うのは初めてのことだ。

 息はどうすればいいの。

 そんな風に頭で考えている内はよかった。でもどんどん熱烈なキスになってきた。斎藤は暖かい。優しい。完全に身をゆだねるようになってしまい。一瞬唇が離れた瞬間に吐息がもれた。

 鼻から抜けるようなおかしな声を出してしまった。一瞬、斎藤が眼を見開いたような顔をしたが、次にもっと激しくキスをされた。もう回数は覚えていられない。斎藤の手が千鶴の膝先から太股に伸びてきて千鶴は恥ずかしくなった。短いスカートを履いてた。
千鶴は、首から腕を離して一息ついた。それは斎藤からするとまた艶めかしい吐息にきこえ酷く興奮し、同時に狼狽した。

 俺はなんてことを。

 斎藤は、禁を破ってしまった気がした。千鶴が高校生の間は、決して不埒な不純なことはしてはならん。駄目だ。これ以上は。

 それにしても歯止めが効かぬものだな……。

 斎藤は、千鶴の口元を見た。可愛い。もっと口づけてたい。それにあの首筋にも触りたい。できれば唇や、舌で……。

(なにを考えておるのだ)

 斎藤は、もうこれ以上千鶴に触れるのは危険だと思った。暴走する。劣情が止められん。

 千鶴は、紅茶のおかわりはいいですか、と尋ねている。斎藤は、応える代わりに静かに首を横に振った。この調子なら、旅行中はもっと大変になる。俺は自分を抑えることができるのだろうか。

 斎藤はだんだん赤面してきた。そうだ、部屋を一緒になどと千鶴の家に来るまでに軽々しく考えていたのだ。危険だ。二人で同じ部屋に、二人きりとは。それこそ、無理だ。俺は、俺は、

 千鶴を抱きたい。

 これはずーっとそう思ってきている。もう一年以上もそう思っている。だがけじめだ。けじめが必要なのだ。いくら下の名前で呼び合っても許されるものではない。千鶴の父親に正式につきあっていると手紙を書こうか。お嬢さんと同じ部屋に泊まりたいとどう言い出せばよいのだ。

 近藤先生にお許しをもらおうか。土方先生か。だが、どう切り出せばよいか解らぬ。

 ずっと考えごとをしている斎藤を千鶴は不思議そうな顔で見ていた。斎藤は、はっと気づいて、「今日はこれで帰る」と一言言うことが出来た。

 鞄と道具袋を持って玄関に立った斎藤に、千鶴が抱きついてきた。斎藤は夕飯とチョコレートケーキの礼を言った。千鶴は嬉しそうに背伸びをすると、斎藤の頬にキスをした。首にぶら下がるように笑う千鶴が可愛い。斎藤は、唇にまたキスをした。長いキス。また千鶴は吐息をついた。

 めまいがする。この声を聞くと。

「一緒の部屋に泊まりたい」

 気がつくと、千鶴の耳にそう囁いて抱きしめていた。千鶴は、じっと抱きしめられたまま暫くして。

「はい、はじめさん」

 そう、斎藤の肩越しに返事する声が聞こえた。互いに離れた時に、真っ赤になっていた。

「おやすみなさい」

 千鶴の鈴が転がるような声を聞きながら玄関のドアを閉めた。斎藤は夜道を、宙を浮いたような足取りで家路についた。




つづく

→次話 FRAGMENTS 2




(2018.02.05)

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