第九部 塩湯

第九部 塩湯

薄桜鬼奇譚拾遺集

慶応元年 六月

 屯所が西本願寺に移ってから、始めての夏を迎えた頃のこと。

 ひんやりとした雨が数日続いた後、一気に気温が上がり、京に夏がやってきた。道場で稽古を終えた斎藤が北集会所への階段を上ると、廊下の向こうに山崎烝の姿が見えた。表階段から自室に向かおうとしていたのか、遠目に二人は立ち止まると、互いに眼と眼を合わせた。

 斎藤が少し顎を上げると、山崎は小さく頷いた。

 これは二人の合図。「たのむ」「わかった」と無言のまま伝え合い、その後風呂場で落ち合う。先に山崎が大浴場に向かって湯船に浸かっていることが多い。斎藤が身体を流して湯舟に浸かると、互いに前日までの隊務の報告をし合う。監察方である山崎は、副長土方の直轄の仕事を請け負っている。平隊士二十名を束ね、集団で巡察をする斎藤の任務とは違い、山崎は主に単独で任務にあたっていた。市中を偵察することが多い。そんな山崎から、潜伏している不逞浪士や関所の様子を聞くことで、次の見廻り先の目算がつく。幹部の集まりでも、先に山崎の情報が耳に入っている斎藤は、土方に新しい巡察先の提案をすることが出来た。

 身体があたたまると、山崎は湯舟から上がり斎藤を床にうつぶせにさせ、按摩を始める。これもいつもの習慣だった。毎日のように剣の鍛錬をする斎藤は、全身に疲労が溜まっている。山崎は経絡を刺激して全身の気の流れを整える。山崎に身体を整えてもらうと、翌日の調子は全く違っていた。身体が軽やかで、剣を振るうと全身の動きに切れが出る。大浴場が出来て間もなく、山崎に首の寝違いを風呂場で治してもらって以来ずっとこうして身体を整えてもらうようになった。按摩士としての山崎の腕は確かだった。

 按摩が終わると、身体を洗いまた湯舟に浸かる。二人とも寛ぎ、湯を掬って顔にかけたり、のんびりと脱力する。そして、どちらともなく話し始めるのだが、話題はもっぱら【土方】の事だった。

「あの方はこの前、絽の単衣を纏っておられたが、深い鼠色だと思ったら、よく見ると真紫が織り込まれた生地だった」

 そう山崎が感心して話す。

「土方さんは、江戸にいた頃から大層洒落者であった。反物選びも色味に拘っておられる」

 斎藤が微笑みながら話す。山崎が土方が何を着て、どう振る舞ったのが格好良かったと話すと、斎藤は嬉しそうに頷く。そして、斎藤が江戸に居た頃の土方との思い出話をするのを、山崎が嬉しそうに聞く。毎回二人は副長話で盛り上がるのだが、何百回と同じ話をしても、決して飽きることはない。斎藤も山崎も楽しくて仕方がなかった。まるで、芝居小屋を後にした娘御二人が茶屋で役者のあれが良かった、これが格好良かったなどと語り合うかの様。こうして土方愛好家の二人は、今日も按摩で身体を整え体を洗った後に、湯船に浸かり寛ぎ始めた。

「ここ暫く雨が続いて寒かったのに、このように急に真夏のように暑くなると、湯が熱すぎるのが困りものだ」

 そう言って山崎が湯舟から上がり、手拭いを窓の傍の床に敷くとその上に座って涼みだした。斎藤もその後に続いて、窓から入る風に当たりながら涼んだ。

「せっかく汗を流した後に、熱い湯で更に汗をかく。湯沸かしを控えるように下男に伝えねば」

 山崎がそう言うのを、斎藤は頷きながら聞いていた。

「これからは、汗かきに追いやられる。京の夏は蒸し暑い、いっこうに慣れない」

 山崎は、床からとった手拭いで、窓から入る風を送るように扇ぎながら話す。斎藤は、「ああ」と返事をしながら、汗が引くのを待った。

「去年は、薬湯を用意して雪村君を行水させたが、今年もさせた方がいい」

 山崎がそう話すのを聞いて、斎藤は少し驚いた。まだ壬生に屯所があった去年の夏、千鶴に行水をさせていた事を聞いてはいたが、薬湯に浸からせていた事は斎藤は初めて耳にした。

「薬湯で行水、おなごには必要なのか?」

 斎藤がそう訊ねると、山崎は微笑みながら答えた。

「雪村君の汗疹予防に」
「彼女は、真夏でも袴着で日中をずっと過ごす。我々と違って、着物を脱いで汗を流すことはできない」

 斎藤は、それもそうだと思った。

「それに、彼女は晒しを胸に巻いている。あれが良くない」

「晒しは悪いのか?」

 斎藤が訊ねると、晒しは悪くはないが、皮膚に汗が溜まるのが良くないと山崎は説明した。

「皮膚の穴に汗が溜まったままだと肌が炎症を起こす。汗疹が出来て、ただれると難儀だ。軟膏をつけてもなかなか治りにくい」

 斎藤はだんだんと千鶴のことが心配になってきた。このような陽気ではさぞ汗もかくことだろう。

「彼女の場合、晒しで絞めつけているのがそもそも良くない」

 山崎が真剣な表情で話す。晒しの絞め付け。身体に悪いのか。斎藤はそう単純に思った。

「乳の出が悪くなる」

 窓に向かって、きっぱりと断言するように言うと、山崎は振り返って斎藤に頷いた。乳。斎藤は、一瞬山崎が何を話しているのか分からなかった。

「乳が出なくなるのか」

 そのまま鸚鵡返しに訊ねた。山崎はそうだと頷いた。

「俺の実家は鍼灸医だが、親戚の叔母が産婆をしている。小さい時から、お産の手伝いもやらされていた」
「お産の後に、乳の出が悪いと子が育たない。乳がよく出る者もおれば、そうでないおなごもいる」

「おなごが普段から乳をしめつけていると、乳がでなくなる」
「乳が育たんそうだ」

 斎藤は、山崎の説明をじっと聞いていた。乳が育たぬ……。そう心の中で繰り返しながら、千鶴の事を思い浮かべた。千鶴はどこか少女然としていて、山崎が言う、お産や乳の話と結びつかなかった。

「沖田さんの話では、雪村君は大層固く晒しを巻いて乳を締め付けているらしい」

 山崎が真剣な表情で話す。総司、総司がなにゆえ、そんな事を知っている。斎藤は驚いた。

「雪村くんは、男装束をするために乳を潰すつもりでいるようだ」

 山崎が心配そうに話す隣で、斎藤は驚いていた。乳を潰す。雪村は乳が潰れてしまっておるのか。斎藤は衝撃をうけた。

「潰れておるのか」

 そう問う斎藤に、山崎が「いや、そんなことは……」と言葉を濁す。十分、汗が引いた二人は再び、湯船に浸かった。

「潰れてはいない」
「それどころか、よく育っている」

 そういう山崎は、一瞬微笑んだように見えた。微笑みというより、ほくそ笑むような。一瞬だったが、その表情の変化は、斎藤の心を落ち着かなくさせた。

「山崎くんは見たのか」

 単刀直入に斎藤は問いただしてみた。うなずいた山崎が、「何度か」と答えた。斎藤は驚いた。雪村が晒しをきつく巻いているという総司といい、山崎といい。なにゆえ見たことがあるのだ。

「彼女の具合が悪い時は、診るのが役目ですので」

 得意げに答える山崎に内心腹立ちを感じながらも、山崎は雪村千鶴を患者として見ている風でもあり、その肌にしても乳にしても、医者独特の【物】のような言い草で話す風でもあり。一体どっちなのだ。乳も、肌も……。乳も。肌も。

「……それでどうなのだ。雪村の乳は?」

 つい訊いてしまった。斎藤は、しまったと思ったが。山崎は、「乳ですか?」と普通に聞き返す。斎藤が頷こうとしたら、山崎が、「形状ですが、」と説明を始めた。

 その時、急にガラガラーっと大きな音をたてて浴場の戸が開くと、二番組の隊士が大勢入ってきた。

「お疲れ様です!!」

 そう挨拶して勢いよく、桶で湯を汲み上げてばしゃー、ばしゃーと身体を流し始めた。隊士たちは大騒ぎで、湯が熱いと文句をいっていた。

 斎藤は、目の前の山崎がほくそ笑みながら、口を動かすのを見詰めていただけだった。

(なんと言っている、聞こえん)

 山崎は、千鶴の胸の形状を斎藤に説明し終わると、湯船から出て水を頭からかぶり始めた。斎藤は、湯舟の真ん中で立ち上がったまま茫然としていた。一番大事なことを聞き逃してしまった。

(なんと言っていた)

 斎藤は、山崎の口の動きを思い出したが、さっぱり判らなかった。こんなことなら読唇術を山南さんからちゃんと習っておけばよかったと後悔したが、そんな後悔も先に立たず……。

 しまったと思いながら湯船から上がり、頭から何度も水をかぶってから浴場を出て部屋に戻った。



*****

どくだみの薬湯



 翌日も朝から蒸し暑い夏日だった。斎藤は、巡察に出る前に千鶴に急に暑くなったが具合は大丈夫かと訊ねた。

「はい、お陰さまで」

 そう言って千鶴は微笑む。その笑顔をじっと見ていると、前髪が汗で濡れていて、額に汗をかいているのが見えた。

「汗をかいておるではないか」

 斎藤はまるで咎める様に千鶴に言うと、手拭いを差し出した。千鶴は礼を言って手拭いを受け取ったが、自分の手拭いを袂から出して、額の汗を拭うと、そのまま首もとの汗も拭いた。斎藤は、千鶴が襟元に手拭いを入れて汗を拭う姿を見て、見てはいけないものを見てしまった気がした。

 千鶴は、頬を紅くする斎藤を不思議そうに眺めながら、斎藤に手拭いを返すと。

「ありがとうございます。斎藤さん、どうかお気をつけて。暑さが厳しいので水分をとるのを忘れないでください」

 そう言って、本願寺の門前まで出て斎藤たちを見送った。斎藤は、振り返って千鶴が袴を翻して門の中に入っていく姿を見た。今日も暑くなるな。再び前を向くと、ぎらぎらと照りつける陽の光をまぶしく思いながら、歩を進めて行った。

 その後も毎日うだるように暑い日が続いた。雨が降っても気温は下がらず、蒸し暑いまま。斎藤は巡察から戻ると、とりあえず、隊士と一緒に大浴場へ直行して汗を流した。斎藤達が、浴場を出た時に渡り廊下の向こうから、千鶴が大きな桶を抱えてやってきた。

「すみません、薬湯を用意していたのですが、皆さん上がってしまわれたんですね」

 そう言って、薬湯の入った大きな桶を抱えて浴場に入っていった。斎藤は、浴場に引き返して千鶴が桶を運ぶのを手伝った。相馬が大きな盥を持って来て、そこに千鶴は薬湯を注ぐと、あともう一杯分、台所においてある薬湯を運んでくると言って、走って戻って行った。

「朝からずっと、先輩はこの薬湯を煮出していて、大鍋につきっきりで」

 相馬はそう言って、台所に戻って行った。斎藤も一緒に台所についていき、千鶴を手伝った。台所には、ドクダミの葉が大量に入った駕籠が置いてあった。

「山崎さんが、東山まで行って摘んで来てくださって」

 千鶴はそう言うと、平駕籠にドクダミを拡げてお勝手の外の台の上に並べている。天日干しにすると、さらに効能が上がる。そう言って、何度も往復して外に薬草を干しに出ていた。斎藤が手伝うと、千鶴は休んでいて下さいと笑う。せっかくお風呂に入られたのに。そう言って、冷たい湧き水があるからと、湯飲みに水を汲んで斎藤に腰掛けさせた。

「この薬湯を、手拭いにつけて湯上がりに身体を拭くと、汗疹が治ります」

 千鶴が説明するのを聞いて、斎藤は山崎が千鶴のために薬草を調達したことが解った。

「ああ、山崎がそう言っていた」
「あんたも浸かると良い」

 微笑みながら斎藤が勧めるので、千鶴は頷くと再び出来上がった薬湯を桶に注いで、浴場に向かった。斎藤は千鶴と相馬を手伝い終わってから部屋に戻った。夜更けに再び、汗を流しに浴場に行くと脱衣場に貼り紙がしてあった。薬湯が用意してあること、手拭いを直接盥に入れないようにと注意書きがしてあった。千鶴の美しい手蹟だった。雪村は自分の汗疹より隊士の事を心配しておるのだなと思った。



****

前川屋敷の中庭でのこと

 数日ぶりに、偵察で屯所に居なかった山崎が戻って来た。斎藤は、いつもの合図を送り、浴場で落ち合った。按摩の後に身体を洗って、湯舟に浸かった。ぬるめの湯が丁度良い。山崎は、久しぶりに屯所に戻ってこられたと笑う。今晩の幹部の集まりに参加して、再び偵察任務に戻るらしい。山崎が湯舟から上がり、薬湯の盥から桶で薬湯を掬い、手拭いを持って窓の傍に立った。斎藤も山崎の真似をして薬湯を桶に掬って窓辺に向かった。

「ドクダミは、汗疹に効くが匂いがきつい」

 そう言って、薬湯に浸した手拭いで身体を拭い始めた。斎藤は思った。確かに、独特の匂いがする。

「去年は、前川の庭にある枇杷の葉の湯を使った。枇杷は良く効く、匂いもしなくていい」

 斎藤は、前川屋敷の大きな枇杷の木を思い出した。そうか、枇杷も良いのかと思った。

「前川の中庭で、日中人が出払ってからよく行水をさせたものだ」

 山崎は、千鶴の行水の話を始めた。斎藤は、当時千鶴の行水に関わってはいなかった。前川屋敷の中庭を使っていたことも初めて知った。

「俺は、行水の準備と見張りも兼ねて衝立の前で待っていると、よく沖田さんと藤堂さんが現れた」

「あの二人は偶然を装って、彼女の行水を覗きに来ていた」

 斎藤は驚いた。総司も平助も何を考えておる。

「植木の陰から覗いているのに俺が気がつくと、まるで通りがかりのように二人は俺に話しかけた」

 山崎は、ずっと遠くを見るような表情で話続ける。

「藤堂さんは、『あれ、山崎君、こんなとこで何してるの?』と大きい声でいうものだから、衝立の向こうの雪村君は随分慌てて行水を止めて着替えていた」

「その様子を全部、沖田さんは植木の陰から覗いていた」

 斎藤は呆れると同時に憤った。総司め、何を考えておるのだ。

「覗くだけならまだ良い。沖田さんは、衝立から着物を着て出てきた彼女をからかった」

 あれ、盥に洗濯板が立てかけてあると思ったら、千鶴ちゃんだったんだ。

「彼女は真っ赤になっていた。俺が二人を咎めると、二人は走って屯所に逃げてしまわれた」

 山崎は話を続ける。斎藤は、怒り心頭だった。あいつら、そのような狼藉を……。

「彼女は、泣いていた」

 山崎も怒っている様子で話続ける。「俺は副長に報告した。沖田さんと藤堂さんは大目玉をくらった。当然、処罰をうけた」そう言って、山崎は微笑んだ。

「夕餉抜きの部屋での謹慎。副長から思い切り拳骨をくらっていた。大きな瘤ができていた」

 山崎は、いい気味だったと笑う。その後、衝立で四方を囲んで彼女を行水させた。桃の葉を大坂から買って来て、桃の葉の薬湯に浸からせた。あれは良い。収斂作用があり、肌を保護する。雪村君の肌はきめが細かく、柔らかい。そう微笑みながら話す山崎を斎藤は黙って見詰めていた。

(やわらかい。たしかに、雪村は柔らかい)

「だが、沖田さんと藤堂さんは懲りずに、今度は母屋の屋根に登って、そこから覗き始めた」

 斎藤は目を見開いた。屋根だと。あいつら、何を考えておる。

「用意周到だ。梯子で母屋の反対側から屋根に上がり、そこから遠眼鏡で覗いていた」

 山崎も怒ったような表情で話している。

「局長が大事にされている南蛮渡来の遠眼鏡だ。おおかた、沖田さんが勝手に局長の部屋から拝借していたのだろう。遠眼鏡で屋根から覗けば、彼女の裸は丸見えだったろう」

 あいつら、風呂から上がったら斬る。

 斎藤は憤った。雪村の裸を遠眼鏡で覗くなど。絶対に許さん。

「俺は、局長に報告した。告げ口だと、あの二人は怒っていたが、あのような所業が許される筈はない」

 斎藤もその通りだと思った。近藤さんはきっとお咎めになっただろう。

「局長は怒っておられた。だが、処罰を与えるどころか。『総司も平助も、おなごに興味があるのは結構だ』 そう言って、二人を連れて島原に出掛けていかれた」

「女を買ったらしい」

 斎藤は衝撃を受けた。局長、一体……。

 よく、土方さんが近藤さんは総司に甘いと言って呆れておられるが。俺もそう思う。雪村が肌を見られ、恥ずかしめを受けた上に、その下手人はお咎めなしどころか、女まであてがわれるなど……。

「遠眼鏡で覗かれていたことは、雪村君は未だに知らない筈だ」

 山崎は静かに話す。知ったら彼女はまた傷つく。俺は、沖田さんと藤堂さんが覗いているのに気づいた時に、速やかに彼女を着替えさせた。そう言って、山崎は溜息をついた。

(そうか……。知らぬが仏ということもあるな)

 斎藤も千鶴が知らぬのなら、その方が良いと思った。すると、山崎がまだ話を続けていた。

「沖田さんの所業は過ぎる。その後も、遠眼鏡は大層ものが良く見えたと自慢していた」

 知ってる?あの子、必ず、左の手首から身体を拭う。
 おっぱいは小さいけど丸いお椀みたい。僕の好み。毛穴までよく見えたよ。
 ねえ、あの子のおしりの割れ目の上に【窪み】があるの、あれなんで?

 斎藤は、山崎が総司の口真似をするのを聞きながら、不覚にも興奮してしまった。そんなにもつぶさに見たのか。なんということだ。

 そして、興奮と同時にやはり怒りがこみ上げた。総司、俺はあんたを絶対に許さぬ。

 山崎の話では、その直後に土方が八木邸のおまさに頼んで、八木家の内風呂で千鶴は貰い湯をすることが出来るようになった。そして、入浴中の見張りには斎藤が任命された。以来、千鶴の入浴中の見張りは斎藤がしている。斎藤が知っている限り、総司も平助も千鶴の風呂を覗いた事はなかった。

 翌日、斎藤は巡察の帰りに前川屋敷に立ち寄り、主人に頼んで枇杷の葉を分けてもらった。それを持ち帰って、千鶴に薬湯に使うようにといって渡した。千鶴は、大層喜んでいた。


*****

丹後の塩湯

 もう六月も終わりの頃、山崎と風呂に入りながら語り合った。もう二人の話題は土方のことでなく、全てが千鶴の汗疹についてだった。この事は余程、二人の関心事なのだろう。

「彼女の乳は椀型ゆえ、乳を押さえると、乳の下に汗が溜まる」
「あそこが爛れると難儀や」

 最近、山崎は大坂弁で斎藤と話すことが多くなった。斎藤は、千鶴の胸の形状を知ることができたのが内心嬉しかった。

(椀型か。よいな)

 おなごの胸の形には斎藤の好みがあった。今まで多くの女を目にしたわけではないが、丸い胸の形を想像するだけで千鶴の裸が目に浮かぶ。誰にも言えないが、時々夢で千鶴のそのような姿を見ることがあった。

「今度、【丹後の塩湯】に雪村君を連れて行く」

 山崎が斎藤に微笑みながら話した。

「ここから少し遠いが、湯治には丁度良い。【塩湯】はたちどころに皮膚の病が治る」

 塩湯、斎藤は初めて耳にした。山崎が丹後の海岸にある塩の温泉のことだと教えてくれた。

「因幡の白兎の話があるだろう。フカに毛をむしられた白兎が、海水をかけられ陽に灼かれて真っ赤になる」

 斎藤は、山崎が話す白兎伝説の話を聞いていた。

「国作りの皇子が、白兎に真水で塩を流して、蒲の穂を散らした上で転がると治ると教える。丹後の塩湯も同じだ。塩湯に浸かった後に、真水で塩を流して、蒲の穂の綿毛で肌をまぶせば、たちどころに汗疹もただれも治る」

「副長に、非番を貰った。雪村君もだ。次の偵察が終わったら、湯治に向かう」

 嬉しそうに話す山崎が心底羨ましいと斎藤は思った。


 その夜、斎藤は夢を見た。

 海岸を歩いていると、波打ち際に白兎が座って泣いていた。
 どうしたのかと斎藤が訊ねると、白兎が顔を上げた。兎は雪村千鶴だった。

 千鶴は、丸裸で座っていて、その身体は兎というより人間の姿だった。ただ、耳はふわふわとした白い兎の耳を生やし、涙を拭う両手の先も白い毛皮の手袋をつけているように丸くて兎の手足の形をしていた。身体は、人間のおなごの裸の姿。手で顔を覆うのに曲げている両腕の間に、丸い椀型の綺麗な胸がみえた。細い腰から紡錘形に繋がる小さな尻には、ふわふわの丸い尻尾がついていて。尻の割れ目の上にちいさな窪みも見えた。正座をする足はきれいに閉じられて、女らしいなだらかな太股や膝を見ると、雪村の白兎は随分と娘らしい美しい体つきをしている事に気づいた。

「フカとお猿に、身体の毛をむしりとられてしまいました」

 そう言って泣いている兎の背後から少し離れたところに、フカの総司と猿の平助がしゃがんでいる姿が見えた。
 二人とも、悪戯をして満足しているらしく狡猾な表情で笑っていた。斎藤は憤った、足元にあった大きな石を持ち上げると、二人に投げつけた。驚いた二人は、フカの総司の背中に猿の平助が飛び乗って、海の沖に向かって泳いで逃げてしまった。あいつら、許さぬ。斎藤は、波の向こうに消えていく二人を見て思った。

「ただれた肌には、塩湯がよい」

 斎藤は、海岸線の傍にある塩湯に兎を連れて行った。塩湯に浸からせ、その後に真水で丁寧に塩を流した。蒲の穂を崩した綿毛を芥子の花弁の上に拡げて、兎をそこに寝かせた。そして綿毛を全身にまぶしてやった。兎は気持ちよさそうに微笑んでいた。お椀型の丸い胸や臍の上に白い綿毛が拡がる。しゃがんだ斎藤は、兎の真っ赤に爛れていた肌が、だんだんと白い美しいきめ細やかな肌に変わるのを眺めた。

 手に綿毛をとって、胸や腰を覆ってやった。兎は気持ち良さそうに笑う。

「みこさまも」

 そういって兎の雪村は斎藤の手を引いて着物を脱がすと一緒に横にならせた。二人で綿毛を身体にかけあい、転げ回った。楽しい。心地が良すぎる。気がつくと、小さな兎の雪村を抱きしめていた。たおやかな腰つきは、女らしく柔らかで。自分の胸に触れるやわらかい兎の胸はなんとも言えぬ感触だった。斎藤は興奮した。綿毛にまみれた己の股間が熱い。

 兎のゆきむら
 みこさま

 そう呼び合って口づけあった。雪村の頭の後ろに回した手に、ふわふわの耳が触れた。その感触が可愛くてたまらない。斎藤は兎をきつく抱きしめた。

 斎藤が目覚めた時、外はまだ暗いままだった。なんと珍妙な夢だ。布団に起き上がった斎藤は、自分の起ちあがった股間を見て呆れた。同時に、まだ肌に綿毛と兎のふわふわの感触が残っていて、もう一度白兎の雪村と抱き合いたいと強く願った。布団に横になると、布団を被って夢の続きを見ようと再び眠り直した。


***


 斎藤は、翌日の夕餉の後、土方に呼び出された。

 土方の部屋に行くと、急な話だが、明日から【出石】に偵察に行って貰いたいと言われた。

 攘夷派運動の首謀者である長州藩士が但馬国出石に潜伏している情報が入ったという。京から山陰路に長州までの逃亡宿が点在している。宿場町や街道沿いの村を洗い出す手がかりは、出石の商人宿にあると土方は話した。土方の狙いは、逃亡した長州藩士を捕縛することだ。だが今回はあくまでも情報の裏付けをとるのが目的だった。宿が特定できたら、頃合いを見て捕縛隊を結成するという。

「山崎がちょうど丹後に向かう。一緒に出石に立ち寄って商人宿を見つけて検分をしてきて欲しい」

「丹後には、千鶴も行かせる。おまえが護衛につけ。塩湯で湯治をさせる」

 土方は、ずっと非番をとらずに働きづくめの斎藤を労う気持ちもあった。四、五日ゆっくりしてくりゃあいい。そう言って、紙に包んだ金子まで斎藤に渡した。斎藤は、土方の気遣いに丁重に礼を言って部屋を後にした。

 塩湯に俺も行く

 廊下を歩きながら、じんわりと実感が沸いてきた。雪村を塩湯に浸からせて、真水で流してやろう。その後は蒲の実だ。沢山摘んで、綿毛だらけにしてやろう。

 斎藤の足取りは軽やかだった。留守中の巡察の代理を新八と平助に頼んだ。手下の隊士にも屯所を留守にする旨を伝えた。それから、旅支度を始めた。夏の旅装束は身軽でよい。翌朝は早いので、旅行李に必要なものを詰めると、刀の手入れをして早々に床についた。

 まだ暗い内に起き出した斎藤は、井戸端で顔を洗うと台所に向かった。千鶴が、既に朝食の支度をしている。土間の台の上には、握り飯が三人分用意されていた。内飼袋も三人分用意されている。千鶴は、拡げた竹皮に握り飯を載せて酢ごぼうと沢庵を添えている。斎藤の姿に気がつくと、旅にでる人の朝餉は用意できていると、言って、斎藤を土間の端に置いてある、膳に座らせ給仕をした。斎藤は礼を言って、先に朝食をとって部屋に戻った。

 空が白く明るくなって来た。斎藤は、はばきに草鞋を履いて手甲をつけた。大小を腰に差して菅笠を持つと、玄関に回った。既に山崎が待っていた。そこへ千鶴が、弁当の入った内飼袋と竹水筒を持って現れた。人数分の荷物を表階段の上に並べると、腐りにくいように握り飯に梅干し、酢ゴボウが入れてあるからと言って笑った。斎藤は、千鶴が全く旅の支度をしていない様子が気になった。もう陽が昇り始めている、段取りのよい千鶴の事だから、そう手間取りはしないだろうが、このように旅に出る寸前まで台所で用事をさせてしまっている事が気になった。そこへ、北側の廊下から笑顔の井上が現れた。

「おはよう。待たせたかい?」

 井上はそう言って、足早に歩いてくると、階段で草鞋を履いて丁寧に紐を結んだ。はばきをつけて、手甲もつけて菅笠まで持っている。井上も旅にでるのか。斎藤は、階段を下りて斎藤達の前に立った井上を見詰めた。そこに再び千鶴が台所から戻って来た。千鶴は、全く旅の準備をしていない普段着のまま、草履をひっかけて歩いてくる。

「井上さん、お弁当とお水です」

 千鶴が笑顔で内飼と水筒を井上に渡すと、井上は「ありがとう、雪村君。すまないね」そういって受け取った。

「では、皆さんどうぞお気をつけて」

 千鶴は門前まで出て、手を振って斎藤達を見送った。斎藤は、何故湯治に雪村がいかぬ。それを訊けぬまま、ずっと黙って歩き続けた。

「昨日夜遅くにね、雪村君が私の部屋に来て。丹後の塩湯に湯治に行くように言われているが、自分が行くより、井上さんに代わりに言って欲しいと言われてね」

 井上が歩く道すがら話始めた。

「雪村君は、私の【田虫】をずっと気に掛けてくれていてね。自分はどこも悪いところはないからと言って。わざわざトシさんに、直談判して代わりに私が湯治に行けるように頼んでくれたらしい」

「本当に心根の優しい娘さんだ」

 井上は嬉しそうに話す。隣を歩きながら頷いている山崎は、井上が【田虫】持ちだと言うことを良く知っているようだった。斎藤は、残念でならなかった。塩湯の夢立ち消えたり。白兎のゆきむらも、蒲の実の綿毛も、椀型の丸い胸も、一緒にまみれる裸の自分も、すべてが霞となって宙に消えていく。

 此はいかなる禍事か

 嬉しそうな表情の井上とは真逆に、斎藤は目の前の道行きが真っ暗になった気がした。



****

陽に灼かれて

 千鶴が旅の一行に加わらなかった為、残念な気分も相まって斎藤は黙々と歩き続けた。男衆のみの足並みは随分と急ぎ足で、その日のうちに但馬国出石に到着した。日没前に件の商人宿に着くと、攘夷過激派の長州藩士の潜伏は確認できなかったが、宿帳などを検分することが出来た。確かに、定期的に長州藩士がここを定宿としているらしいことは判明した。山崎は、今後定期的に出石への偵察に来ることになるやも知れぬと井上と斎藤に話した。

 翌朝早くに丹後に向けて一行は出発した。山道を抜け再び日本海の荒波が見える海岸線に辿り着いた時、もう陽が落ちていた。宿に着いた三人は夕餉を食べて横になった。翌朝、いよいよ塩湯に浸かりに行くことになった。手拭い一枚を下げて、浴衣と下駄で海岸まで歩くと、塩湯処が見えた。背後には絶壁の崖がそそり立ち、その袂に蒲の穂がいっぱい実っているのが見えた。変わった形の岩が真っ白な砂浜に点在している。風光明媚な風景を、三人は太陽の光に手で翳しながら眺め感心した。早速浴衣を脱いで、塩湯に浸かった。

 普通の湯とは違い、透明だがとろみがあるような感触の湯だった。舐めると海水より塩辛い。湯温は低いが、肩まで浸かると十分に身体が温まった。そして、全身の細胞が弛緩していった。完全に脱力した三人は、これは極楽だ、至福だと呟き、微笑みあった。

 陽の光は燦々と三人を照らす。三人は眩しさも相まって目を細め、ただひたすらに塩湯に溶けていった。耳には潮騒が聞こえるだけ。洛中の喧噪の中、市中見廻りに勤しむ緊張した毎日とは真逆のひととき。斎藤は。こんなにも全身の力を抜いて、のんびりとした事は上洛して以来初めてだった。井上にしても、山崎も同じだった。そして、身体の力が抜けるのと同時に、心も緩やかにのんびりとほぐれていった。半分瞼を閉じた向こうに見える海の光。拡がる海原に完全に己が同化していった。

 おもむろに山崎が湯から立ち上がって、腰に手拭いを巻くと。塩湯の向こうにある溜め水の桶に向かった。桶には、長い樋が崖の方から渡してあり、真水が引かれていた。木の立て札には丹後の湧き水と書いてある。
手桶で湧き水を掬うと身体にかけて塩を流した。斎藤も同じように真水で塩を流した。冷たい。陽に灼かれた頭や肩に清涼な水をかけるとすこぶる気持ちよかった。井上も塩を流したが、山崎が井上を簀の子の上に腰かけさせた。そして丁寧に、柄杓で真水を井上にかけて行く。山崎は、井上に両足を拡げるように言うと、井上の股間に水をかけ始めた。

「わるいねえ、烝くん」

 井上は、そういいながら、「冷やっこい」と言って笑い、ずっと股間に水をかけられ続けている。手持ち無沙汰な斎藤も見よう見真似で、柄杓で水を掬っては井上の股間にかけた。

「斎藤くんも、わるいねえ」

 井上は、開脚したまま斎藤に礼を言う。

「たいしたものだねえ。塩湯に浸かった途端、いつものムズムズが治まったよ」

 井上は、顔から垂れた水を両手で拭いながら話す。その間も、山崎と斎藤は黙々と水を掬っては井上にかけつづけた。

「いやあ、これだけ冷たいと縮みあがるね」

 そう言って井上は笑う。確かに、井上の股間のいちもつは縮んでいるように見えた。

「二人とも、礼を言うよ。私の【陰金】も退散したようだ」

 井上が満面の笑顔で言うのを聞いて、斎藤は驚いた。いんきん。源さんは、【陰金】持ちだったのか。山崎は、今度は崖の方に向かって歩いて行った。斎藤と井上はその後に続いた。蒲の穂を摘んで、持ってきた手拭いに持てるだけ包むと、筵の敷いてある場所に持っていき、蒲の実を手でほぐして綿毛にしていった。斎藤と井上は山崎のすることを見よう見まねでやって、筵の上に沢山の綿毛を貯めた。何度か蒲の穂を摘みに行き来した後、筵の上に井上を寝かせて、蒲の綿毛を井上の股間に振りかけた。【陰金】を治すのに、蒲の綿毛をこうすると良いらしい。斎藤と山崎は、黙々と蒲の実を摘んでは綿毛を作って井上の股間に振りかけ続けた。

「いや、これは極楽だ。屯所では、四六時中ムズムズが続いてね。困るのは、食事の支度中だよ」
「まさか、雪村くんの前で、股を掻くわけにもいかなくてねえ」

 井上は笑いながら話す。あまりに【陰金】が痒くて、手に持った鍋を落としそうになったこともあるらしい。
「私の様子を雪村くんがあんまり心配するもんでね。【田虫】持ちだと言ったら、あの子は、「お背中が痒ければ、私が掻いて差し上げます」って」

「私も、まさか若い娘さんに、【陰金】がなんて言えやしない」

 そう言って、井上は苦笑いした。斎藤は、千鶴が台所で井上を心配する姿が目に見えるようだった。そして、塩湯に千鶴が来ていない事を再び思い出した。目の前で笑って横たわる源さん。綿毛まみれになって。斎藤は、いつか見た夢を思い出した。芥子の花の上に拡げた綿毛の上に横たわる白兎の雪村。

 大層、可愛らしかった。

 じりじりと熱い。陽の光を浴びながら、蒲の実を持って歩くうち斎藤の頭は惚けて行った。綿毛にまみれる雪村は可愛かった。椀型の乳に、思う存分蒲の綿毛をかけてやろう。

 再び戻った斎藤は、そこに横たわる井上の姿をみて愕然とした。綿毛から見える萎びたいちもつ。それでも、隣の山崎は黙々と綿毛を作っては、井上に振りかけている。斎藤も手に持つ蒲の実をほぐしては投げていたが、気づくと、そのまま蒲の実を筵の上に投げつけていた。

「随分と、乱暴な真似をするじゃないか」

 井上が笑顔のまま起き上がった。斎藤が気づかぬ内に投げた蒲の実が井上の股間に当たってしまったらしい。
 井上は、斎藤より一廻り年上だ。斎藤は、「源さん」と親しげに呼びかけているが、年長者への礼儀は厳格に守って来ていた。故意ではないにしろ、患っている股間に向けて、物を投げるなど言語道断の行いだった。だが、じりじりと太陽に灼かれた斎藤の頭は、完全に惚けていた。目の前にいない兎の雪村への思慕も募り、そこに居ない雪村千鶴が恋しく、同時に目の前の井上とその【陰金】を恨めしく思った。それゆえ、無意識に井上の股間に当たり散らしてしまったらしく……。

 そう己の行いを反省した瞬間、斎藤の股間に向けて井上が蒲の実を投げてきた。井上も陽に灼かれ、完全に箍が外れたらしい。その大人げない行動は、その隣で黙々と綿毛作りをしていた山崎にまで伝染していった。山崎も蒲の実を斎藤の股間にめがけて投げつけてきた。暑さで惚けた山崎は、普段とは違い攻撃的な様子だった。蒲の実が斎藤のいちもつに命中すると嬉しそうに笑顔になった。

 斎藤は、陰嚢への衝撃がそのまま脳天まで達すると、うなり声を上げてうずくまった。そして完全に我を失った。手に持っていた蒲の実を狂ったように山崎の股間にめがけて思い切り投げつけた。井上も山崎も立ち上がり、二人で一緒になって斎藤を攻撃し始めた。
 斎藤は負けていなかった。両手で連続で実を投げる。最初は、手拭いで身を庇っていたが、脱衣台に置いてあった打刀を手に取って立ち向かった。鞘のまま投げつけられる蒲の実を次々に打ち返す。目にも留まらぬ早業。

 蒲の実を跳ね返され、井上と山崎はまずいと思ったのか、踵をかえすと一目散に逃げ出した。一糸まとわぬ男が二人、波打ち際をひたすら走る。斎藤も素っ裸のまま二人を追い掛けた。井上と山崎は、砂浜に打ち上げられた若布や萎びたほんだわらを掴んでは、斎藤に投げつけた。斎藤も負けじと、海藻を投げ返した。

 砂浜で作業をしている地元の漁師たちが、手を翳して裸で海藻を投げ合う斎藤達を眺めて呆れていた。御武家があのように……ほたえまわって。散々、ふざけ廻った三人は砂浜を追い掛けあいながら引き返してきた。そして、三人で綿毛の筵の上に先を争うように飛び込んだ。

 陽の光に灼かれて
 男三人
 旅の恥は掻き捨て
 裸で戯れる

 大声で笑うその姿は
 太古の昔の猿の如く

 三人は
 至福の時を過ごした

 斎藤は珍しく
 声を上げて笑った
 綿毛に横になりながら
 ただ拡がる碧い空を眺め
 ここは天国だと思った

 そして
 白兎ではなく雪村千鶴を
 いつか塩湯に連れてきてやりたいと
 心から思った

 塩湯の湯治は一日きりだったが、日頃の緊張や責務から解放された三人は身も心も清々しくなって市中へ戻って行った。


 了




(2018.06.13)

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